冥王星SS1
冥王星ちゃんは何年か前に転入してきた転入生で、その当時は大人っぽく「お姉さん」という言葉がふさわしい人だと思った。進学校から一般の人なら誰でも受かるような普通の学校に転入してきた彼女に、皆はなんて声をかけたらいいかわからず戸惑っていた。
そんなある日、私は彼女が忘れ物をしたのに気付いた。もしかしたら皆気付いていたのかもしれないが、言うに言えず臆病になっていたのだと思う。
私は意を決して彼女に声をかけた。
「これ使う?」
教室は静まり返り、振り向かないまでも皆こちらを気にしているように感じた。冥王星ちゃんは少し驚いた顔をしてから、照れくさそうに笑って「ありがとう」と言った。皆はそれから良く彼女に話しかけるようになり、あっという間に彼女は教室に馴染んでいった。
○
冥王星ちゃんはクラスの人気者で、素敵な笑顔が魅力だった。何年もそうやって皆の中心にいて、わたしは見ているだけ微笑ましかった。けれど最近、彼女はどこか不安定のように見える。誰かと会話を終えた後考える素振りをすることや、声をかけられても少しの間気が付かないことが多いような気がする。
「何考えてるの?」
クラスメイトの藤川に声をかけられてはっと気付く。「彼女も誰かのことを考えているのかな」
「ん?何?」
「何でもないよ藤川、もう帰ろう」
「ごめん、私も一緒に帰ってもいい?」
藤川と帰る準備をしていると、後ろから声をかけられた。振り向くと冥王星ちゃんが私のカバンを掴んで立っていた。藤川はにこりと笑うと「先に帰るね」と言って帰ってしまった。
「なんか、ごめん。藤川は冥王星ちゃんのこと嫌いなわけじゃ」
「良かった、実は二人で話したいって思っていたんだ。」
彼女の笑う顔が眩しかった。
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