ハロインパーティ



――――プツンッ
 街灯が切れて、あたりは暗くなる。先ほどよりも喧騒は一層煩さを増した。ガヤガヤと聞こえる言葉の中には楽しげに話す者もいれば、いきなりの暗闇への恐怖を叫ぶ者もいる。確かに仮装した「人間」たちが暗闇にひしめき合っているという異常な環境は、とても変わっていた。
 僕は冷静にブレーカーをあげる。まだつかない。地域一帯の停電だろうか?
 目が暗闇に慣れてくると、ゾンビめいた男女が溢れかえる空間がはっきりと目に入るようになってくる。お酒が入っているやつもいて、そいつらはまるで本当のゾンビのようにも見えてくる。少し気味が悪く、早く電気復旧するのを願うばかりだ。
そんなふうに周りを見渡しながら立ちすくんでいると、
「ねえ君……」
と声をかけられた。関係者以外此処へは来ないと思っていたものだから心底びっくりする。
「やっぱりねえ」
この空間には合わないほど簡易な魔女の格好をした女性――僕の良く知る部活の先輩が立っていた。
「何してるの? 君は仮装もしないでさ」
少し不満そうな表情をしながら「驚いた?」とおどける。
「先輩こそなんでこんなところに」
「楽しそうだったからよ! 死ぬまえに一度はこう言うの経験してみたいじゃない?」
先輩はそう無邪気に笑った。
「友人に頼まれたんですよ。家にいても外に出ていても虚しいだろ、って言われて。押し付けられただけなんでしょうけど」
「そうねえ、君には私くらいしかいないものねえ」
得意げに言う顔を見てやり返してやろうと「先輩こそ僕以外にからかう人間いない癖に」と言ってみた。それに対して先輩は
「そうよ」
と澄ました顔でそう一言言うだけだった。その瞬間の彼女のまとう雰囲気はこの空間には異質で、浮いたその魔女の仮装も相まって本物の魔女、或るは人間ではないように見える錯覚に陥った。
 もしここで彼女が指を鳴らすのと同時に明かりがついたのなら……と空想に浸っていると急に電気が復旧し、あたりを照らし出した。

「電気着いたわね。きっと私のおかげだわ!」
先輩はそう言いながら安っぽいステッキ振った。
「……そうかもしれませんね」
「たまには素直なのね。ねえ、お酒だけ貰って帰りましょう!」
楽しむつもり満々の先輩を、未成年の僕は黙って見守るしかなかった。
まあ、こんなハロウィンもありかな……と思った

『ジムノペディの彼らのハロイン』
〜彼にとっての魔法使い〜


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