また今度2




 私たちは何も言葉にださないままただ隣にいる。そっと手を重ねて、まるで恋人のように肌を寄せあおうとする。私はそれを拒みもせず、ただあなたに合わせる。そういう時の私の心はまるで宙に浮いているようで、少し虚しさを覚える。その度に私にはこんなこと向いていない、と思うのだ。

 空はどんどんと明るさを増して、明け方だった世界は朝へと移り変わろうとしている。
「ねえ、服着よう」
「やだ」
「なんでよ」
 あなたの返答は分かっている。それでも気付かないふり、分からないふりをしてしまう。傷つけてしまうこと、悲しい思いをさせてしまうことが確信できてしまうのを怖がっているのだ。
「帰りたくない」
「うん」
「帰りたくない」
「帰るよ。あなたが帰らなくても私は帰る」
「冷たい」
 私だって、このまま私とあなたの永遠の糸がぷつりと切れてしまうことを考えたくはない。けれど、以前からある沢山の糸を私もあなたも紡いでいかなければならない。
「帰るよ」
「帰るけどさ……」
 少ししょげてしまったあなたを見て、冗談らしく「帰りたくないね」と小悪魔めかして笑えばよかったのだと気付く。
「ごめんごめん、また今度時間合わせるから、ね」
 私はあなたを元気づけようと有るかもわからない未来の話をする。この会話をする時、私はもう一生会うつもりなどない。今の幸せやまどろみが次会う時に続くわけではないことを、私はとうの昔に知っている。




 そうやって朝になってしまうと、私たちのそんな短い時間の足掻きや欲望や些細な幸せは朝日に浄化されるかのように消えていく。そうして私たちは迷うことなく互いの手を離し、別々に歩いていく。何事もなかった顔をして、他人のふりをして。


おわり 

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