純喫茶2
乙沢さんと音葉さんが仲直りした話を聞いたのは三日後でした。優しい笑みを浮かべる乙沢さんと腕を組み、無邪気に話をしている音葉さんの姿がそこにはありました。
「良かった、仲直りできたのですね!」
私がそう声をかけると音葉さんはにこにことしていた表情をスッと引き締めて「任せなさい、といったでしょう」と自慢気な顔をなされました。
そんな音葉さんを横目に、乙沢さんは「君のおかげだよ、まるでキューピットだな」とへらへら笑っていらっしゃいました。音葉さんはコホンと咳払いをすると「本当にそうね、貴女がいなかったら私謝れていなかったと思うわ。あ、ありがとう」と顔を真っ赤にして言ってくださいました。
「こちらこそ、素敵なお二人をまた見ることが出来てとても幸せです。また今度どこかでお茶しましょう」
「ああ、そうだね。今度は音葉の好きなデニッシュを食べに行こう。音葉連れて行きたいと言っていたよね?」
「ええ、お気に入りのお店なのよ。わかるでしょう、特別よ。」
私は乙沢さんと音葉さんを見送って大学へと向かいました。
私の心は幸せでいっぱいです。
後書き
お二人が仲直りをする前に乙沢さんとお話をした時、乙沢さんは本当に寂しそうでした。
「僕が音葉との約束を破ったのがいけないのだけれどね、まさか音葉がそんな風に思っているだなんて思いもしなくて。」
乙沢さんはいつもにこにことしているせいもあってか、余計に寂しそうな表情をしているように見えました。
「いいえ、きっと本心ではないと思います。」
「でも音葉は嘘なんてつかないだろう?」
なよなよとしょぼくれる乙沢さんに水を浴びせて「頭を冷やせ!」と言いたくなるのをぐっと堪えました。しかし勢いは止められません。
「まあ、わからず屋ですね。女の子はいつだって嘘をついているのですよ。もっと一緒にいたいとか、どこに行きたいとか何がほしいとか、一日の終わりに「またね」と言うのに、音葉さんが寂しい思いをしてないとでもお思いですか。」
「それでも音葉さんは笑顔を向けてくれているのではありませんか」私は強めの口調でそう言いました。頭を冷やすべきなのは私かもしれません。
「じゃあ、なんで別れたいなんて…。なんでそんなことを」
「それくらい自分でお聞きになったらどうです?気付いて欲しかったのではありませんか、音葉さんは。」
「ああ、そうだな。これだけ一緒にいて気付かないなんてな。音葉、連絡がつかないから探しに行くよ。」
そういいながら寂しそうな笑みを浮かべて去っていく乙沢さんを、私は見送ったというわけなのです。
喧嘩をしていてもお互いの事を考えているお二人の関係性が、とても羨ましく思えました。いつか私も互いを思いあえる人と出会えるのでしょうか。
不安だらけの未来が、少し楽しみになった気がしました。
前|目次|