彼女の1



風で彼女の短い髪が揺れる。
高い所特有の強く吹き抜ける風が、肩につかない長さの毛先をすくってさらりと優雅に揺れる。その後ろ姿には長髪の面影があって、長い髪が大きく揺れていた頃の彼女を思わせた。

そんな彼女の後ろ姿をじっと見ていると、彼女はゆっくりと振り返りこちらに向けて見ている方が苦しくなる程に無理やり笑った。すると一瞬、高い所特有の風は突風へと吹き代わり、私はあまりの風の強さに目をつむった。次に目を開いた時、驚くべきことに彼女の背中には大きな翼が生えていて、それはばさあと音を立てて大気を揺らした。
そして彼女は私を見つめたまま後ろへと倒れていった。

それから彼女は。

「ねえ」

私は彼女を見失って、それから―――「ねえってば」

友人の言葉に私はハッと我に返る。
「やっぱり鍵開いていないよ」
私と友人と先程まで翼を生やしていた彼女は、屋上と繋がる扉の前で立ち往生していた。



それは四時間目が始まる寸前のことだった。
友人がトイレから帰ってくるのを教室のドアにもたれかかりながら待っていると、彼女が声をかけてきた。
「四時間目、サボっちゃおうよ」
長い髪を揺らしながら彼女が可愛く笑ったので、私は顔を緩ませながら「仕方ないなあ」と言う他なかった。そうすると彼女はまた嬉しそうに笑うので、私はドキドキした。

それから友人が戻ってくると、私たちはとんでもない罪を犯すような気持ちで作戦を立てた。それは休み時間でも来る人の少ない階段へ行こうというものだった。簡単なことのように思えるその作戦は、先生に見つからないために、授業している教室を避けたルートまで綿密に練ったものだった。
こっそり階段を上っていると、四時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。私たちはなんだかとてもおかしくて、必死になって笑いを堪えた。きっと楽しくて仕方がなかったのだと思う。




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