コルダ3 | ナノ




(本当に可愛いなぁ)


 今まで何百と繰り返したかわからない呟き混じりに大地は隣に眠るかなでの髪を撫でた。
 白いシーツの上ですぅすぅと寝息を立てて眠る彼女はどこまでも無垢で、あどけない。高校生の時からもう幾年も経ったはずなのに、彼女の美点だけはずっとあの時から変わらないままだ。むしろ、可愛いに年相応の美しさが加わっただけより魅力的になったといえる。


(もう少し自覚してくれても良さそうなものなのに)


 自分にはとんと無頓着で警戒心がないものだから、側で見ている方がハラハラしてしまう。
 大地は淡い橙色の髪を掬い、唇を寄せた。柔らかな甘い匂いが香る。


「ん…」


 ようやく微睡みから覚めたかなでは、とろんとした眼差しのまま大地の姿を見つめる。今が朝か昼か、それとも夜なのかさえわかっていないという顔だった。彼女は未だに夢から覚めやらない顔のまま、ぼんやりと首を傾げる。


「大地さん…?」

「おはよう。昨夜はいい夢を見られたかい?」

「あ…はい、まあ」

「ん?」


 煮え切らない態度に、大地はかなでの顔をじっと見つめる。
 羞じらいつつ視線を伏せた姿は、いつもの朝と少し違って新鮮だった。からかい半分に彼は言葉を付け足す。


「もしかして俺の夢でも見てくれたのかな?」

「っ…!」


 さっと赤みが差した頬がとてもわかりやすく、大地の言葉が真実であることを伝えてくる。堪えきれずにくつくつと笑い出した大地をかなでは上目遣いに睨む。そして、彼の身体を突っぱねた。


「そろそろお仕事の時間じゃないんですか!?」

「まだまだ時間はあるし、もう少し寝ても大丈夫さ」

「え、…ゃっ」


 かなでは僅かに抵抗しようとしたものの、あっという間に腕の中に抱き込まれる。
 触れるように唇を啄んで、耳朶へと唇を寄せる。その動きにかなでの顔は更に真っ赤に染まっていく。思わず、頬を緩ませながら大地は彼女に睦言のように囁きかける。


「ね、かなで」

「っ…反則ですよ」


 その声と呼び方に弱いと知っているのにと――すっかり拗ねてしまったのか、かなでは唇を尖らせて顔を伏せてしまった。太陽に似た髪を撫でながら彼は零れるように甘い笑みを溢した。



「愛してるよ」






(寝ても覚めても一番の愛してるを君に)




10/04/21
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企画『君と過ごす夏』様に提出させて頂きました!