「なまえーっ!」
クラスに響き渡る大声で発せられたその名前に、
梟谷学園2年6組の教室では一瞬時が止まった。
いつもだったら呼ばれたであろう赤葦くんは、わたしの隣の席である。
立ち上がろうと微妙な体制から、きっとクラスで一番初めに止まった時間から解放され、
「みょうじさん、木兎さんが呼んでるけど……。」
とわたしの方に顔を向けた。
その言葉に、クラスメイトたちもハッとしてわたしの方を見る。
明らかな動揺だ。
それもそのはず。
だって木兎光太郎はこの学校で知らない人はいないというぐらいの有名人だ。
全国常連の強豪、男子バレー部の主将にしてエース。
性格も明るく元気で親しみやすいムードメーカー。
そんな彼が貞子みたいな髪型に眼鏡という典型的なクラスでも目立たない女子生徒の名前を呼んでいる。
彼はもう一度
「なまえ?」
とわたしの名前を呼んだ。
そして微動だにしないわたしに痺れを切らしたのか、
ドアから教室へ足を踏み入れた。
その瞬間、わたしの頭に警報が鳴る。
ここにいてはいけない、と。
幸いわたしの席は一番窓側だ。
逃げなきゃ!!!
こう思ったわたしはガタッと大袈裟に椅子から立ち上がると、一目散に逃げ出した。
………窓からベランダに飛び出して。