拍手と歓声に包まれて色とりどりの花びらが降り注ぐなか、まるでこの世で一番幸せだというような微笑みを交わしながら寄り添う二人。
 太陽の光を反射してキラキラと煌めく純白のドレスの向こう、穏やかな表情で二人を見つめるその男から目が離せなかった。



幸せのカタチ



「よぉ、久しぶり。」
 アルコールも程よくまわり、周りの話す声や歓声が耳に心地いい。
 披露宴よりラフな格好に着替えた二次会会場で、新郎新婦の周りには沢山の人々が集まり各々好きなように話したり酒を酌み交わしている。その光景を壁にもたれたままぼんやりと眺めていると坂田は突如目の前に現れた。
「最近忙しいみてーじゃん。」
 グラスを傾けてへらりと笑うその頬はほのかに赤く染まり、酔っているらしい事が窺える。
 差し出されるシャンパンの入ったグラスを受け取ると、男は満足したように壁際に腰掛ける土方の隣に腰をおろした。
「テメェと違ってな。」
「さっき沖田君達がお前の悪口で盛り上がってたぞ。」
「あいつら…ッ」
 横目に睨み付けると坂田は楽しげに笑ってグラスの中の酒を飲み干した。
 会場内でも目立つ白い髪はその動きに合わせて淡い銀色に揺れ、照明の光を跳ね返して不規則に煌めく。
 渡された飲み物に口をつけると僅かに炭酸を含んだそれはシュワシュワと小さな音をたてて弾けた。
「まさかあの二人が結婚だなんてなー…」
 突然騒がしくなったかと思うと人混みの中心でなにやら喧嘩を始めた新郎新婦を見て坂田はその灰色がかった目を細めた。
 中学からの同級生だった二人がじゃれ合いから喧嘩に発展することなど日常茶飯事で、それを知っている幼馴染の面々は笑いながらそれを眺めている。笑顔が満ちたそこはどこか遠く、よく見知ったはずの二人や周りを囲む友人達が何だか他人のように見えた。
「披露宴でのアイツの顔、ありゃあ人間じゃなかったぜ。新婦より新郎が号泣しすぎて親族ドン引きだったじゃねーか」
「ぶっ、テメ、それ言うんじゃねェよ。思い出すだろーがっ、」
 飲み込みかけていたアルコールを吹き出しそうになって咳き込むと、苦々しげに顔を歪めていた坂田も緩く笑う。その瞬間、会場内が暗くなったかと思うと備え付けのスクリーンにでかでかと『HAPPY WEDDING』の文字が踊った。
 定番のウェディングソングと共に映し出される幼少期から中学時代の懐かしい写真。大人になってから訪れたのであろう様々な場所での二人の写真はどれも楽しげに微笑んでいるものばかりでとても幸せそうだった。
「あー…。お前、昔『特別だっていう関係である限り、ずっと一緒にいれる保証なんてない』って言ったよな?」
 突如投げかけられた言葉にスクリーンへと向けていた視線を隣へと移すも、坂田は相変わらず真っ直ぐ前を向いたまま言葉を継いだ。
「まぁぶっちゃけその通りだなって。」
 初めて会った中学時代から会う度に喧嘩ばかりして気にくわない奴だと思っていたが、その不思議な色の髪だけは昔から素直に綺麗だと思えた。
 自分でも知らない間に形を変えて育ってしまった感情に、坂田が気付いたのはいつの事だっただろうか。なんとなく、当たり前のようにキスやセックスするようになってそれが数年続いたある日、別れを告げたのは自分の方だった。
 気まずい空気が流れるのを予測して顔を上げられなかった土方に対して、坂田はひどく軽い口調で分かったとだけ言った。
「今更なんの話だよ。結婚式の空気にでも当てられたか?」
 それからは何もなかったかのように以前のような関係に戻り、まるで恋人だった事が夢だったかのような錯覚すら起こすぐらいだった。
 もしかしたら恋人だと思っていたのは自分だけだったのかもしれない。現にそんな言葉を交わしたことなど一度もなかった。
 鼻で笑って小馬鹿にしたような口調で言うと、いつもはそれに応戦するように軽口を叩く坂田の、こちらを向いた瞳はいつもとは違って見たことがないぐらい真剣なものだった。
「お前が望むなら、遠くの国で永遠でもなんでも誓ってやるけどそんな事じゃねぇだろーが。」
「…ッ、」
 大事だと、思った瞬間に怖くなった。
 男女のように約束もできないような不確かな関係を続けていく自信をなくしてしまった。
 けれどいつか誰かと永遠を誓って去っていく坂田を友人として見送ろうと、決めた事にすら負けそうな自分がどうしようもなく嫌いで、ずっと距離を置いていた。
 そんな自分の弱さにも気付いていた、きっと坂田は。
「さか、」
「隣にいることに意味を持たせるのが怖ぇなら、俺も一緒に背負ってやるよ。」
 いつの間にか明るくなっていた室内で眉根を寄せた男の顔はなんだか泣きそうに見えた。
 もしかしたらあの時見れなかった「分かった」と言った坂田の顔はこんなものだったのかもしれないと思うと、胸から溢れる言葉に喉がつかえて上手く声にならなかった。
『今からビンゴ大会を始めますんで皆さんカードを取りにきてくださーい』
 賑やかさを増す会場で、握り締めたグラスはいつの間にかぬるくなっていた。





ーend.













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