この町に帰ってきて1年が経つ。
高校のときに転校してきて、1年だけ住んだ町。
馴染みも薄く、友達もおらず、まさか戻ってくるとは思わなかった。
それでも、戻ってきたときは不思議と懐かしい気持ちがしたものだ。

「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」

翌日。
いつもどおり出勤して、自分の席に着く。
卒業して3年、民間の会社で働いたが、辞めて地元に戻り、市役所に就職した。

都会での生活は向いていない。
実家にいるぶん、少なくとも向こうよりは余裕のある生活を送れている。

「昨日は遅くまで仕事した?」

「9時頃でしたかねぇ」

「おつかれさま」

隣の席の先輩が、デスクにチョコレートを置いてくれる。
みんな優しくて、働きやすい職場だ。
内気で卑屈な性格も、都会の荒波の中で少しは改善されて、今は知らない場所でも人並みに周囲と打ち解けられるようになった。

だが、イレギュラーな対応については別の話。
昨日のことが、ずっと頭から離れない。

借りたタオルは新しく買って返す予定だ。
だが、その後は?
礼を言おうにも、男の素性が知れない。
顔すらろくに覚えていない。

駅で待ち構えていてつかまえるか?
だけど、いつ出てくるか、あの駅を使っているのかさえわからない人をどうやって?

私は頭を抱える。

お礼を言わなきゃ。
そして、汚れてだめになってしまったタオルのお詫びをしなくては。

そればかりが頭に張り付いて、夢にも出てきそうだ。
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