10
明るく手を振って帰っていく夫人を見送り、私はぎろりとディアンを睨んだ。
彼はきょとんとした顔で、ことりと首を傾げる。
「あんた、私に何を飲ませたの」
カウンターに両手をついて、身を乗り出して詰め寄る。
「なにって、風邪薬だよ」
「何を混ぜたの!」
「病人に妙なものを飲ませたりしないよ。何か副作用でもあった?」
顔を顰められて、言葉につまる。
確かに、今まで見てきた限り、ディアンはそういうことをする人じゃない。仕事には真面目で、誠実だ。
「実際、元気になったでしょ?むしろ、僕が怪しい薬を作ったりしないって証明になったんじゃないかな」
「……紅茶よ!」
ばしんとカウンターを叩くと、ディアンは何を言っているかわからないというように片眉を上げる。
「紅茶?紅茶に何を入れたって?」
腕を組んで返事を待つディアンの様子に、私は唇を噛む。
このやろう、知っててやってるんじゃないのか。
私は赤くなった顔をごまかすように、怒りにまかせて声を上げる。
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