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田舎の普通の家だった。
しかし、家長制度や女性蔑視が強く残っていた。
我が家で一番偉いのは祖父で、大事にされるのは長男で、私はいつでも底辺だった。
兄に与えられる愛情がこちらに向けられることはなく、私はいつも見下される対象だった。
教育の機会も経済的援助も望むだけでは足りず、自分で手に入れなければならなかった。
帰ったらあの家で奴隷として生きていかなければならない。
あの田舎で結婚してしまったら、また新しい家の奴隷となってしまう。
帰りたくない。
やっと手に入れた自由だ。
「お兄ちゃんいるんだ。似てる?」
鬱々と語った話の感想はどうでもいい内容で、私はエルを睨んだ。
「だって、逃げてこられたんでしょ?もう君は居場所を得られた。ハッピーエンド。ね?」
エルが肩をすくめて言う。
確かに、そうだ。
家も、ごはんも、仕事もある。
全部手に入れた。
帰らなくていい理由も。
全部。
「……家族には似てないって言われてたけど、学校では似てるって言われてた」
「ふーん。よかったね」
「よくない」
「僕は姉さんと似てるって言われると嬉しかったけど」
悪気なく言われて気が抜ける。
その顔と似てるって、姉はどんな美女だ。
「寂しい?」
尋ねられて、少し迷って、頷く。
「寂しい同志だね、僕ら」
エルは珍しく笑みを浮かべた。
純粋に嬉しそうな顔をされて、完全に毒気を抜かれて笑ってしまう。
冷たい風に、秋を感じる。
郊外の空にはきちんと夜がやってきて、白く星が瞬いている。
寒いと呟いたエルの手が私のほうに伸びてきた。
重なった手は氷のようで、人の温もりを感じない。
それでもなんだか安心してしまって、私はゆるく彼の手を握り返して、泣きそうになる顔を闇に伏せて帰路を歩いた。
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