「エル、そろそろ日が昇るよ」

「……ここで寝る」

「何言ってんの。早く部屋に戻って」

午前五時。
そろそろ夜明けだというのに、エルはいつまでもソファーでごろごろしている。

「早く起きて。死んじゃうよ」

「うん」

「うん、じゃなくて」

「じゃあ一緒に来て」

とうとう子守歌でも歌わせる気?

この家に来て三ヵ月。
ひきこもっていたのと同じ月日が過ぎて、私はすっかりこの屋敷の住人になった。
でも、地下に行くのは初めてだ。
私は興味津々で、眠そうに目をこするエルの後をついていく。

「え、待って、ちょっと、見えない」

階段を降りると、漆黒の闇が待っていた。
壁に縋って、すたすたと歩いていくエルを呼び止める。

ああ、とエルは状況に気づいて戻ってきた。
手を取られて、私はそろそろとついていく。

怖い。
闇が深すぎて、人間の踏み込むべき場所じゃない。

「寝室入るよ。足元気をつけて」

エルは私を誘導し、少し進んで足を止め、かちりと音を立てて照明を点けた。

「棺桶じゃないね」

「当たり前でしょ」

どうやら枕元の明かりを点けたようで、橙色の光の中に大きなベッドが浮かび上がった。
エルはそのままベッドに上がり、手を引っ張られて私も倒れ込む。

「消していい?」

「待って、戻れなくなる」

「ここで寝て」

「へ?」

反論する間もなく、明かりが消された。
もぞもぞと布団を被る気配がして、すぐに寝息が聞こえてくる。

嘘でしょ。

戻ろうにも、一寸先も見えない状態で身動きが取れない。
私はベッドの中で溜息をつき、諦めて布団に潜り込んだ。

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