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夜、部屋のドアがノックされて、寝ようとしていたヴィムは顔を顰めた。
こんな時間に部屋に来る奴なんてレイモンしかいない。
それも結婚してからほとんどなくなっていたというのに、今日に限って。
寝たふりをしようかと思ったが、もう一度ノックがあったので仕方なくベッドから出る。
乱暴にドアを開けると、立っていたのはミレイユだった。
「遅くにごめんなさい」
驚いて声を発せずにいると、ミレイユは申し訳なさそうに眉を下げた。
ヴィムは慌てて塞いでいた道を空け、部屋の中に通す。
「眠ってた?」
「いや、大丈夫。座って。何か飲む?」
「いえ、いいの」
ヴィムは動揺しながらもテーブルへ案内しようとしたが、ミレイユはドアの前に立ったまま動こうとしない。
最近、ミレイユの様子がおかしいのには気づいていた。
しかし、彼女が何を聞いても口を開こうとせず、避けられている気配すらあったのでどうにもできなかった。
ゆえに、しばらくミレイユの部屋を訪れることもなく、今日も一人で悶々としていたところだ。
まさか彼女のほうからこちらの部屋へやってくるとは想像もしなかった。
「どうしたの。何か用事?」
ヴィムは困って首を傾げた。
ミレイユも同じように困った顔で俯く。
「……用事というほどのことでもないのだけど」
「うん」
「お願いがあって」
「うん。何でも言って?」
ミレイユの願いだったら何でも聞くに決まっている。
しかし、彼女の発した言葉はヴィムの予想を超えるものだった。
ミレイユは躊躇った様子のまま、困り果てたような声でこう続けた。
「一緒に寝てもいい?」
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