オベール家とは、王家を守護する由緒ある家だ。
正しくは、守護神を祀る神殿を守る家。
母の家柄が神官に関わる系統だったため、ミレイユも神殿の末端の下女として働くことになっていた。
だが、働き始めたその日、偶然出会ったレイモンが家に迎えてくれた。

なぜ私のような子供を。

当時は疑問に思ったが、今ならわかる。
ミレイユがヴィムに触れられたからだ。

「ヴィム」

ギィ、とドアが開く音がして、金色の獣が姿を現した。
ミレイユは膝をついて彼を迎える。

「どこに行ってたの?探したよ」

ヴィムはその問いに知らん顔をして、機嫌を取るようにミレイユの頬を一舐めする。

「外に居たのね。……太陽の匂いがする」

ミレイユはヴィムのたてがみに顔をうずめ、目を閉じた。
彼はされるがままに大人しくその場に座り込む。

一般的に、ヴィムは放し飼いにされてはいけない獣だ。
しかし、ここではレイモンの家族。
奔放に屋敷を歩き回り、今では牙を剥くこともなく飼い馴らされている。

そこまで手懐けたのはミレイユの功績だった。
誇り高く、気まぐれな獅子は獰猛で、出会った頃はミレイユもよく怪我をさせられたものだ。
だが、初めて神殿で出会ったヴィムは、幼いミレイユに頭を撫でさせてくれた。
おかげでヴィムの世話役として、ミレイユはオベール家に引き取られた。

「……私、あなたにも何も返せてない」

ぽつりと呟いた言葉は、ヴィムのたてがみの中に落ちて消える。
美しい獣の答えはなく、ミレイユは回した腕に力を込めた。

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