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とりあえず、とレイモンがひとつ咳払いをして言う。
「しばらくはここに留まるように。まだ完全に人間に戻れたわけじゃないんだから」
「それだな」
ヴィムが頭に手を触れる。
ぴこんと髪の間から、金色の獣の耳が飛び出した。
「な、なによそれ……!」
アデリアが悲鳴のような声を上げて、ミレイユは驚きのあまり声も出せずに身体を引く。
「まだちゃんと人の姿が保っていられないんだよ。ものすごく精神力を使うから、かなり疲れるし」
ぴこぴこと耳を動かして、ヴィムはしかめっつらになる。
アデリアは絶句し、ミレイユは目を丸くした。
毎日見てきたヴィムの耳。
目の前に証拠を突きつけられたようで、ミレイユは気が遠くなる。
「悪いが、ミレイユももう少しここに留まってくれ。神殿にはこちらから話を通しておく」
「でも……」
「というか、神殿に戻ろうが、おまえがヴィムの世話係になることは間違いないんだよ。こいつはおまえのいるところにしか行かないんだから」
ミレイユの言葉をさえぎって、レイモンは苦笑してヴィムに目を向ける。
ヴィムは否定することもなく、当然だというようにミレイユを見てにこりと笑った。
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