10
少し遅く家に戻ると、ヴィムが帰っていた。
傾いた西日が窓から差し込んでいて、椅子に腰かけて外を眺めているヴィムの髪をきらきらと照らしている。
彼の髪は太陽の色によく染まる。
天を思わせるほど、美しく輝く。
「おかえり」
声を掛ける前に、ヴィムが振り返った。
ミレイユを見て目を細める。
「ただいま」
ミレイユは答えて、彼に近寄る。
手を伸ばすとヴィムは少し驚いた顔をしたが、嬉しそうにミレイユの体を受け止めた。
顔を埋めた髪は西日で温かい。
心なしか、獅子の姿でいるときのように、太陽の匂いがする気がした。
「待ってたの?」
「うん。遅いから迎えに行こうかと思った」
「大丈夫よ、ちゃんと帰ってくるわ」
「心配になるんだよ。このまま帰ってこなかったらどうしようって」
「そんなわけないでしょう。ここが私の家なのに」
ミレイユの言葉を聞いて、ヴィムは彼女の体に回した手にぎゅっと力を込めた。
少し笑って、ミレイユはその頭を撫でる。
不安にさせているのがわかるから、少しでも安心させてあげたい。
彼がどんな姿でいても、自分が接する態度は同じであるべきだと、ミレイユは最近になって気がついた。
「大好きよ、ヴィム」
ずっと遠ざかっていた言葉を、ようやく思い出す。
レイモンに対してとは違う温度で、言い慣れた言葉をヴィムに告げる。
「俺のほうが好きだよ」
顔を上げたヴィムは、ミレイユを見つめた後、どこか涙を堪えるような声で言った。
帰る場所がある。待っていてくれる人がいる。
私を幸せにしてくれようとしてくれる人がいる。
そうして、私が幸せにしてあげたい人が。
窓の外に夜の気配が降りてくる。
いつもと同じ。
2人で寄り添っていれば、闇にも光は差してくる。
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