ヴィムが神殿に出かけた午後、レイモンのお使いがやってきた。
お茶に来いというので理由を聞けば、アデリアも留守だという。

「こんなときでもないと二人で話せないからな」

すでにテーブルに着いていたレイモンはにこにこと笑ってミレイユを出迎えた。
用意されているのはミレイユの好きなアップルパイである。
ミレイユは礼を言い、少し緊張しながらレイモンの前に座った。
彼は妹扱いしてくれるけれど、ミレイユはずっと使用人のつもりで暮らしてきたので、同じテーブルにつくだけでも気が引ける。

「美味しいか?」

「はい、とても」

「そうか、よかった」

ミレイユがパイを食べるのを、レイモンは目を細めて眺める。
少し居心地悪く、ミレイユは手を止めて彼にも食べるよう勧めた。

「おまえはいつまでも変わらないなぁ。遠慮なんかいらないのに」

「はい、ですが」

「でも、引っ越してから笑顔が増えた。ヴィムのおかげかな」

からかうように言われて、ミレイユは目を瞬かせる。
笑顔が増えた、なんて。
そんな自覚はなかったし、実際そうなのかもわからない。

「正直ヴィムよりおまえのほうが心配だったんだが。……安心した」

きょとんとするミレイユの顔を見て、レイモンはふっと息を吐いた。
そんな心配をかけているとはつゆ知らず。
ミレイユはさらに驚いて、どうしていいかわからずに目を伏せた。

「俺がここをおまえの家にしたかったのに。ちょっと妬けるな」

ミレイユの様子を見て、レイモンは軽くおどけた口調になった。
返事を探そうとしたが、見つからない。
確かにヴィムと引っ越してから、ここで暮らしていたときのような遠慮や緊張感はなくなった。
神様と暮らすという重圧はあれど、ヴィムと暮らすことに気負いはない。
もう、家の中で自分の居場所を探すこともない。

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