透さんお気に入りのコーヒー屋さんで、私たちは休日デートを満喫していた。
満喫。
透さんは延々と本を読んでいる。
「あのー……」
声をかけても反応がない。
透さんは淡々とページをめくり、時々コーヒーを口に運ぶ。
なんだろうこれ。
放置プレイですか。新しいいじめですか。
私は頬杖をついて、ぼんやり彼の顔を見つめた。
本を読んでいる姿は好き。
いつもはかけない眼鏡をかける姿も好き。
だけど、ずっと見ているだけなのもいい加減飽きる。
「透さん」
返事は無い。
「透さん」
「邪魔しないでくれるかな」
口を開いたかと思えばこの言いよう。酷すぎる。
「今日ってデートに来たんですよね?私は放置ですか」
「読書をしている人に話しかけるなって、学校で習わなかった?」
「習ってませんよそんなの。本なんていつでも読めるでしょ。少しはかまってくれても」
「ちょっと黙って」
視線すら上げようとしない透さんに、カチンときた。
なんで私がこんなこと言われなくちゃならないの。
私は鞄を掴んで立ち上がる。
「もう帰ります!」
怒って帰ろうとすると、後ろから手首を掴まれた。
睨むように振り返ると、顔を上げた透さんと目が合う。
「すみません」
困ったように笑って、透さんは私を座らせ、店員さんを呼ぶ。
やってきた店員さんにメニュー表を見せ、彼はさらりと予想外の注文をした。
「載ってるデザート、ひとつずつ」
店員さんが去っていくと、びっくりしている私を見て優しげに微笑む。
なにそれ。お詫びのつもりですか。
驚きとうれしさで胸がぎゅっとなり、私は怒っているのも忘れて顔をほころばせてしまう。
しかし、透さんは私の頭を撫でて、さらに素敵な笑顔で言い放った。
「食べ終わるまでしゃべんないでね」
追い討ちをかけられたように固まる私から手を離し、彼は再び本に目を戻す。
喜ばせといてこのオチですか!
それでも目の前の誘惑に勝てず、私は自棄になって運ばれてきたデザートにがっついたのだった。
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