久々に、仕事の後に二人で食事をした。
いつもは透さんの車で出かけるのだが、今日は近くだということもあって歩いて出かけた。
「ちょっと散歩して帰ろうか」
食事を終え、店を出て歩きながら、透さんがそう言って手を差し出してくる。
私はうれしくなって頷き、差し出された手に自分の手を重ねた。
男の人の、筋張った手。
手を繋ぐ機会があまりないから、ちょっとどきどきする。
並んでゆっくりと歩いていると、ふいに透さんが口を開いた。
「俺、女の人の手、好きなんだよね」
そう言った透さんの手にきゅっと力がこもって、どきっと心臓が跳ねる。
「真っ白で、指が長くて、細くてさ。爪も奇麗に手入れされてて」
透さんが続けた言葉に、今度は手を引っ込めそうになる。
「名刺とか書類とか渡されるときに、手の奇麗な人って印象いいんだよね。あ、あと、ピアノが弾ける人も好きだな」
逃がさないように私の手を掴み、透さんが爽やかな笑顔を向けてくる。
私は唇を噛んで、その顔を睨んだ。
私の手は小さい。
指も長くないし、細くもない。
一応パン屋で働いていることもあって、ネイルだってしてないし、もちろんピアノだって弾けない。
「泉ちゃんの手は可愛いねぇ」
繋いだ手を持ち上げて、透さんはにやりと笑った。
私の手がいわゆる赤ちゃんみたいな手だということを知っていて、この人はこんなことを言っているのだ!
「余計なお世話です!離してくださいっ」
「いや」
無理やり手を引き抜こうとすると、透さんは楽しそうに手を揺らして歩いていく。
ほんとに腹が立つ、この人。
頬を膨らませてそっぽを向いていると、透さんが笑いながら顔を覗き込んできた。
「でも、泉ちゃんからパン買うの、すごく好きだよ」
その言葉にどきっとするが、いつもの手だと思って視線を合わせないようにする。
「手を繋ぐのも、好き」
だけど、その後に続いた言葉にぱっと頬が赤く染まった。
暗くて良かった、なんて思ってる場合じゃない。
手が熱くなっていくのを見透かされたようで、結局透さんに笑われるはめとなってしまった。
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