休日、透さんの望みどおり、彼の家にごはんを作りにいった。
男の人に料理を作るのは初めてだし、そもそも他人に料理を作ったことなんてない。
何にしようか散々迷った結果、ハンバーグを作ることに決めた。
「できた……!」
付け合せのポテトサラダとスープまで作って、皿に盛り付けてテーブルに並べる。
料理をしている間仕事をしていた透さんを呼ぶと、彼はうれしそうに笑って席に着いた。
「おいしそう」
「あんまり自信ないんですけど」
「自信ないものを俺に出すのかな」
にっこり笑ってそんな言葉を吐かれ、私はうっと返事に窮する。
「冗談だよ。いただきます」
くくっと可笑しそうに笑って透さんが丁寧に手を合わせる。
ちょっと拗ね気味になりながら、私も一緒にいただきますをした。
「うっ……何これ」
どきどきして待っていると、透さんはハンバーグを一口食べるなり、そう言って顔を歪ませた。
「えっ?おいしくないですか?」
「おいしくないなんてもんじゃないんだけど。よくこんなん人に出せたね」
カランとフォークを皿に放り、透さんは口を押さえて嫌な顔をする。
「ごっ、ごめんなさい」
おかしいな。ちゃんと味見もしたのに。
私がわたわたと謝ると、透さんは目を逸らして溜息をついた。
「いいけど別に。期待してたからさ」
「ご、ごめんなさ……」
突き放すような言葉に、じわりと涙が滲んでくる。
せっかく頑張ったのに。透さんが楽しみにしてくれてたのに。
なんで、なんでこんな……。
「嘘に決まってるでしょ!泣いてるしー」
ぶわりと涙が溢れようとしたのと、ぶふっと透さんが吹き出したのは同時だった。
涙目の私を見て透さんはけらけらと笑う。
「すっごくおいしいよ。もっと下手だと思ってたから、ちょっと意外でいじめてみただけ。泣き虫だね泉ちゃん」
ぽかんとしている私をよそに、透さんはフォークを持ち直して食事を再開する。
下手だと思ってた?意外だったからいじめてみた?
意味がわからないんですが!
「ひどい!私本気にしたんですけど!」
「俺、まずくても彼女にあんなこと言ったりする男じゃないよ」
「だって、いきなりあんなふうに言われたらショックじゃないですか!私頑張ったのに!」
「ごめんね。そんなに怒らないで」
私が本気で怒っているにもかかわらず、透さんはマイペースに食事を続ける。
もうやだこの人!本気で焦って損した!
「おいしいよ。泉ちゃん、料理上手だね」
ご機嫌取りのつもりか、食事を始めた透さんが話しかけてくる。
私は無視して食事を続ける。
しかしそんなことにはおかまいなく、続けて透さんはこう言った。
「これなら、安心してお嫁さんにもらえそう」
その言葉に、私は目を丸くして顔を真っ赤にした。
くすくすと笑い声が聞こえて、少しだけ顔を上げると、透さんが私を見てにっこりと笑う。
透さんは一枚上手だ。
その瞬間、絶対許さないと思っていた私の心が、いとも簡単にぐらりと揺れた。
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