毎日夜になると、透さんから電話が掛かってくる。
お互い仕事で店以外ではなかなか会えないので、十分ほどの電話が日課になっているのだ。

「もしもし」

「もう十時なのによく起きてたね」

……ちなみに私は十九歳です。

「透さん、今日も帰ってくるの遅かったんですか?」

「んー、九時過ぎには帰ってきたよ」

「お疲れさまです。ごはん食べました?」

「まだ。今お風呂入ってきたとこ」

「え、すみません。電話、食事してからでも……」

「いいよ。俺が早く泉ちゃんと話したかっただけ」

「へっ?そ、そんな……」

ふいの甘い言葉に、私は思いっきり動揺してしまう。
たまにこういうことをさらっと言われるのだけれど、私はいつまでも慣れなくて、いつも本気で照れてしまう。

「それに、お弁当買ってきたからすぐ食べられるし」

電話の向こうで透さんがくすくす笑いながら言う。

「今日もお弁当ですか?」

「うん。料理するの面倒だから」

「たまにはちゃんとしたもの食べないと、体壊しますよ?」

「じゃあ、泉ちゃん作ってくれる?」

尋ねられ、私はきょとんと目を瞬かせる。

「えと、私でよければ……」

「ほんと?だったら今度作りに来てよ」

「はい。仕事が休みの日でしたら」

「やった。楽しみにしてる」

素直に喜ばれて、こっちまでうれしくなってしまう。
こういうの、いいな。
今日は会話が恋人っぽい。

「じゃあ、そろそろ切るね。明日も仕事でしょ」

「はい。透さんもゆっくり休んで下さい」

「うん、ありがと。……泉ちゃん」

おやすみなさいと言おうとしたら、ふいに名前を呼ばれて遮られた。

「愛してるよ。泉ちゃんごときと話すために、お金も時間もかけられるくらい」

くすりと笑う声とともに、おやすみ、と電話が切られる。
私は目を真ん丸くして、切られた携帯を呆然と見つめた。

今までの甘い雰囲気は、一体どこへ……。

私はがくりと肩を落とす。
やっぱりあの人がただで終わらせるわけがない。

それでも、愛してるという言葉にどきどきしてしまう私は、もう末期なのかもしれないと思ってしまった。

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