閉店間際、仕事帰り、食事をしようと泉ちゃんを迎えに行ったときのこと。
彼女は店の前で、同じ年頃の男の子と話をしていた。
家が近所で、小中いっしょ。たまに店に来てくれて、たまに世間話をする。それだけの仲だ。
彼女はそう言ったけれど。
「そりゃー若い子がいいよね、こんなおじさんより」
「誰もそんなこと言ってないじゃないですか。勝手にいじけないでくださいよ」
「楽しそうな顔して。俺の前であんな顔してるの見たことない」
「いつも楽しいですよ。何言ってんですか」
まだ二十歳を迎えたばかりの年下の恋人は、助手席から困った顔で俺の表情を窺うようにこちらを見上げた。
見かけた二人の姿がお似合いで、面白くなくて意地悪をしてみているだけだ。
本気で怒っているわけでも、何かしら疑っているわけでもない。
年齢なんてどうしようもないわけだし、理解してはいるけれど、やっぱり同年代の男と並んでいる姿を見るとこちらとしては自信がなくなってしまう。
「何笑ってんの」
「いや、透さんでもやきもちとかやいてくれるんですね」
「泉ちゃんのくせに生意気」
困った顔をしながら、笑みが浮かぶのを我慢しているふうの彼女をちらりと睨む。
くそ、可愛い。
泣き顔も好きだが、そうやって無邪気に笑う顔がとても可愛い。
「ま、でも、泉ちゃんは俺のほうが好きだもんね」
「な、なに言ってるんですか」
「顔に書いてあるよ。透さんしか見えませんって」
悔しいのでちょっとからかってやると、彼女は朱くなった頬をぱっと手で隠した。
初心な反応が男心をくすぐる。
こんなふうにしか愛情を確かめられない自分の性格が嫌になるが、純粋な彼女の様子を見ているとさらにいじめたくなってしまうのだから性質が悪い。
「あれ、図星だった?」
「違いますよ!」
「違うの?」
「ち、違わないですけど……あぁもう!だってそうじゃなきゃ付き合ってませんよ!」
自棄になって怒り出す泉ちゃんに、俺は吹き出した。
まったくこの子といると飽きない。
年が離れていようが、性格が悪かろうが、若い子になんか譲ってやらない。
「俺も泉ちゃんしか見てないよ」
俺は前を向いたまま、左手で泉ちゃんの右手を取る。
そのまま唇まで持ち上げて手の甲にキスを落とすと、さらに真っ赤になった彼女から、色気のない悲鳴のような声が上がったのだった。
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