「泉ちゃん、好き」
仕事終わりに合わせてやってきた透さんと、彼の家に向かっているところだった。
突然の発言に赤くなって身を引こうとしたが、手はしっかりと繋がれて離れない。
「なんですか、急に」
「人生最大のミスだよね」
続いた言葉に私はがっくりと肩を落とす。
そうだ、こういう人だ。期待した私が馬鹿だった。
「それ最初のときにも言ってましたよね」
「一年も経とうとするとさ、確信が持てるなと思って」
「確信って」
「だってさ、泉ちゃんお子様だし、単純だし、泣き虫だし、俺のタイプじゃないし。なんかもう、いろいろ失敗だよね」
つらつらと欠点を述べられて、私は思わず動揺し、泣きそうになる。
なに、それ。なんでそんなこと言うの。もしかして、別れ話でもしたいの。
黙ってしまった私を見て、透さんは顔色ひとつ変えず、ほらすぐ泣く、と言う。
それでさらに泣きたくなった。
「……私、もう帰ります。手、離してください」
「あれ、怒った?」
「私も透さん好きになったの、失敗ですよ!人生最大のミスです!」
振り払おうとした手は離れず、さらに力を込めて握られた。
「じゃ、結婚しよっか」
次いで告げられたのは思いがけない言葉。
「お互い責任取って、結婚しよう」
涙も一気に引っ込んで、私は驚いてぽかんと彼を見上げる。
すると、透さんはポケットから指輪を取り出し、繋いでいた手を解いて薬指にそれを嵌めた。
「まさか嫌なんて言わないよね?」
いつもの意地悪な笑みを向けられて、私はいつものように涙を溢れさせる。
信じられない。
なんでこの流れでプロポーズなの。
嫌なんて、まさか、だって、私が断れるわけもないのに。
薬指のリングに輝く小さな石が、涙できらきらとぼやける。
その手を伸ばし、私は透さんの胸に飛び込んだ。
ぎゅうっと私を抱き締めて、透さんは可笑しそうに、幸せそうに笑う。
結婚したら、きっと今まで以上にいじめられて、今まで以上に泣くんだろう。
でも、それでいい。
いたずらっこのような透さんの笑顔が大好きで、ずっと見ていたいと思うから。
わんわん泣きながら、私は好きになってよかったですと言う。
透さんは当たり前でしょと私の頬をつねって、俺もだよと照れ臭そうに笑った。
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