透さんの仕事の都合で、しばらく会えない日が続いた。
正直さみしい。
実は私のことが嫌になったのかとか、他に好きな人ができたのだろうかとか、考えているうちに不安になって、一ヶ月が過ぎて耐えられなくなった。
「お邪魔しまーす……」
もらったものの怖くて使えなかった合い鍵を行使して、透さんの家に突入する。
電気をつける。珍しく部屋が散らかっていた。
本当に忙しかったのだなぁと思い、迷った末、することもないので家事に取りかかった。
夕食を作りながら、新婚さんみたいと思う一方、透さんが帰ってくるのが怖くなる。
うざいとか出て行けとか別れようとか言われたらどうしよう。
考えただけで嫌になって会いにきたのに、そんなこと言われたら死んでしまう。
一通り家事が終わっても透さんが帰ってくる気配はなく、十時を過ぎた。
ソファーに座って、ぼんやり彼の帰りを待つ。
そのうち寝てしまったらしく、ふいに何か重みを感じて目を覚ました。
「……おかえりなさい」
透さんが上に乗っている。
目を擦って小さく呟くと、返事の代わりにキスが降ってくる。
それで一気に目が覚める。
いや、付き合ってけっこう経つしキスだってするようになったけど、この展開は考えてなかった。
「やっと会えた……」
おまけにそう言って透さんが顔を埋めてくるものだから、胸がぎゅっとなる。
それはこっちの台詞なのに。
私は透さんの服を握りしめる。
「遅いよ。なんで来ないの。電話もかけてこないしメールもたまにだし」
「だって忙しいかなって思って」
「なに遠慮なんかしてんの。泉ちゃんのくせに」
相変わらず絶好調だ。
そんな透さんの様子がどうしようもなくうれしくて、私は思わず笑みを零す。
「なに笑ってんの」
「いえ、私も会えてうれしいです」
「だったらもっと早く会いに来てよ」
「すみません」
謝って起き上がり、ごはん食べますか?と尋ねる。
食べるというので立ち上がると、手を引っ張られて透さんの腕の中に逆戻りした。
「今日、泊まってくんだよね?」
「え?いや、明日も仕事ですし……」
「泊まってくんだよね?」
その圧力に断り切れず、私は黙って頷く。
満足そうに透さんが微笑み、額にキスをひとつ。
やっぱり会わないほうががよかったなぁと思ったのは、怒られるのが怖いので内緒にしておくことにする。
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