「…越前、こんなところにいたのか」
「…」
「寝てるのか?呆れた奴だな」
試合中、姿を消した越前を部長である手塚がわざわざ探しに出た。幸いすぐに見つかったが、当の越前は木の影で日陰になっているベンチの上に寝転んでいた。顔の上に被せられた帽子により表情はみえないものの、返事がないため眠っているとうかがえる。
「早く起きろ、誰がさぼっていいと言った」
「…」
声を掛けてみるが、反応がない。手塚はため息を吐いた。
「越前」
「…」
「早く起きないとキスするぞ」
「…っ!?」
手塚の予想外の言葉により、越前が勢いよく上体を起こした。その拍子に帽子が地面へと落ちた。
「起きたか?」
「…っス…あんたでもそういう冗談言うなんスね、意外」
「…冗談にきこえたか?」
「え?」
気づいた時には唇が重ねられ、越前は目を見開いたまま固まった。すぐに手塚は離れて何事もなかったかのように地面に落ちたままの帽子を拾い上げ越前の頭に被せる。
「さぁ、戻るぞ」

それだけ言い残して、踵を返して先に歩き出した。被された帽子をきちんと直した越前は「…にゃろう」と小さく呟き、にっと口許に弧を描く。

「やるじゃん、部長」

ベンチから立ち上がった越前は、前を歩く手塚の背中を見据えた。恋の駆け引きは、相手の方が上手だったのかもしれない。しかし、このまま引き下がる越前ではない。不適な笑みを浮かべた越前は、どうやらスイッチが入ったようだ。

「俺をその気にさせたのはあんただからね…覚悟するっスよ?部長」


さぁ、反撃開始。









恋の駆け引き



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