台本本舗 | ナノ
【悪魔の花嫁 〜愛のカタチ〜】

演者数 2人
所要時間……20分程度

登場人物
花嫁 ♀ 沙也 女性の方。セリフ多めです。
悪魔 ♂ シモン 男性の方。セリフ多めです。
召使 ♂ 年寄り セリフ2つにつき悪魔と兼役でお願いします。




------台本スタート------



沙也N『まとわりついて、うざったくて、気味が悪い存在。第一印象は、そんなものだった』

悪魔「ご機嫌麗しゅう、お姫様。さあ、今日はどこへ参りましょうか」

沙也N『いつだって怪しい笑みを浮かべて、私の前に立ちはだかる』

悪魔「今夜は月が綺麗ですよ。どうです? 私と一緒に散歩など…」

沙也N『昼夜問わず現れては、私の手を引いてどこかしらへと出掛けたがった』

悪魔「どんな景色より、宝石より、貴女が一番輝いて見えます」

沙也N『舌を噛みそうな甘い言葉も、恥ずかしげもなく吐いて囁く』

悪魔「貴女が好きですよ。心から、愛おしい」

沙也N『そう言って薄く目を細めるその人を、私は一度だって信じたことはない。けれど、もはや無視することも難しくなってきた今日この頃。
私は、私の方から彼を誘い出した。現実を見せ付けるために、そして、これまで私の心をかき乱してくれた仕返しをするために』


--------間3秒--------


沙也「ねえシモン、私、行きたいところがあるの。着いてきてくれる?」

悪魔「沙也からお誘い頂けるなんて、今日は何と素晴らしい日でしょう。歓喜に打ち震えそうです」

沙也「大げさね。少し前まで毎日通っていた場所なんだけど、最近はそんな暇がなくてサボってしまっていたのよね。私のことを思ってくれる貴方だから、連れて行ってあげたくて」

悪魔「嬉しいですねぇ。ぜひ、お供させていただきます」

沙也「こっちよ」

沙也N『路地を抜けて小さな広場に出ると、小さな古びた教会が一棟だけ、そこに建っている』

悪魔「…教会、ですか」
(戸惑うように)

沙也「そう。ここは母が生前勤めていた場所なの。私の二つ目の実家みたいなものね。ここに、私の母が眠ってる」

悪魔「…ここに、沙也の母君が…─」

沙也「そう。私は根っからのこっち側の人間で、シモンは悪魔。だからどうしても、相入れる関係は築けないのよ」

悪魔「…」

沙也「ね、シモン。これで私に構うのは御門違いだってわかったんじゃない? 私は貴方の悪戯に騙されるような人間じゃないし、貴方の暇つぶしに付き合えるような人間でもな, 」

悪魔「母君様、貴女の娘さんを、どうか私にください」

沙也「シモン!?」

悪魔「私は悪魔です。人じゃないどころか、むしろ貴女からすれば敵とも言える存在でしょう。ですが、私はこの世界がすきなんです。とても。そして、沙也さんのことも、愛してしまいました」

沙也「…ッ」

悪魔「貴女が許してくださるなら…いいえ、許されなくとも、私は沙也さんを私の妻に迎えたいと思っています。必ず、幸せに出来る自信があります。何故なら、私が沙也さんをこの世界の誰より愛しているからです」

沙也「シモン…」

悪魔「ご無礼を承知で、お願いします。娘さんを、私にください。神に誓い、幸せにしてみせると約束してみせます」

沙也「何を馬鹿なこと…」

悪魔「馬鹿なことじゃないです。沙也の心を手に入れられるなら、私のこの思いが嘘や悪戯などではなく、本物だとわかってくださるなら、誰に笑われようと神にだって跪いてみせますよ」

沙也「本当に、貴方は馬鹿だわ」

悪魔「沙也に馬鹿と言われるのは、どうしてだか許せてしまいますねぇ」
(おどけるように)

沙也「私は人間で、貴方は悪魔。仮に貴方の妻になったとしても、私はいつか貴方を置いて死ぬのよ。病気や事故で、そう遠くない日に死ぬこともあるかもしれない。どうやったって、私は貴方と同じ時間を歩くことはできないの」

悪魔「その時は、その最後の瞬間まで共に居るだけです。貴女が向かう先なら、天国というものがあるなら、そこへだって着いて行きますよ」

沙也「…悪魔が天国へなんて行けるわけないでしょう…本当、馬鹿だわ。そんな覚悟までされてたんじゃ、もう、無視できないじゃない…」

悪魔「沙也?」

沙也「幸せにしてくれるって、本当? 私は、貴方のその手を信じてもいいの?」

悪魔「…! 沙也、それって、」

沙也「イエス。そう言ってるの。貴方の妻になるって。あ、いや、まあ。まずはお互いを知ることからなんだけど…」

悪魔「必要ないです! 私は貴女の全てを見てきました。沙也のことなら、何でも知ってます」

沙也「それはそれで怖いんだけど…ひとまず、私が貴方を知るために、その、」

悪魔「はい?」

沙也「ふ、触れても、いい?」

悪魔「…」

沙也「いや、あの。やっぱり嘘。今のはナシ。ゆっくり話でもしなが、きゃあ!?」
(言い終わらないうちに抱きしめられる)

悪魔「触れてください。貴方になら、この身全てを捧げられる。そして、私も貴女の全てが欲しい」

沙也「…全部くれるなら、全部あげるわ」

悪魔「等価交換、ですね」

沙也「なんか聞き覚えのあるセリフね」

悪魔「さて?」

沙也「ふふふ」


沙也N『だけど・・・。この時の私は、やっぱり少しだけ覚悟が足りなかったのかもしれない。交際を始めて数ヶ月。身近な友人だけを集めた小さな挙式を開いて、私達は夫婦になった。

愛して、愛されて。
そんな平凡な事がとても幸せだった。
こんな幸せがいつまでも続くのだと思っていた。
私の身体から、癌が見付かるまでは・・・・・・』


--------間3秒--------
(悪魔Nの語りが長めです)


悪魔N『永遠だと信じていた幸せは、いとも簡単に終わりの時を迎えた。
幸せだと笑っていた沙也は、発見が遅れた癌のせいであっさりと、この世を去ってしまった。
享年38歳。あまりにも若すぎる死だった。
その死を受け入れるのには、だいぶ時間が掛かったように思う。
妻が先立ってから10年、20年、30年と月日が経っても、考えずには居られなかったのだから。

彼女にもう一度会いたい、と。
そして、愛され、愛したいと、愚かにも願ってしまう。

月日は止まることなく流れ、50年という時間が流れた今も、そう強く願っている私は滑稽でしょうか?
沙也の好きな花が、今年も綺麗にさきました。ああ、本当に・・・・・・貴女に会いたいものです…─』


--------間3秒--------


悪魔「セイレーンに遭遇した女性?」


(トーンを少し下げて語り口調で)
悪魔N『それは、屋敷の召使いからの知らせだった。広い庭には、幾つか池がある。その一つに、何処かから入り込んできたらしいセイレーンが勝手に住み着いているとの報告を受けてはいたが、特に気にすることもなく放っていたのが悪かったらしい。

そもそも、この屋敷に近づく人間も珍しいわけで。こんな事態は想定外だった。そして、被害に遭ったという女性と話をするべく、被害者を屋敷へと招いた。
だがそこで、私は我が目を疑った』


沙也「あ、あの。棗、沙也です…」

悪魔「沙也…?」

沙也「はい。あの、どこか、お加減が悪いんですか?」

悪魔「いえ。大丈夫です、何でもありません。ただ、貴女が少し、知人に似ていたもので…」


悪魔N『似ているなんてものじゃない。そこに立ち、私に向かって笑う彼女は…妻そのものだった。

死んだ時より少し若返っただけの、私が愛しているはずの沙也だった。
けれど纏う雰囲気は別人。
私は、夢を見ているのだろうか?

他人を見るような彼女の視線に、ただひたすら、感情を押し殺すしかなかった』


--------間3秒--------


悪魔N『召使いが彼女の身体を検診した結果、彼女はどうやら、襲われた際にセイレーンの血を少量口に含んでしまっていたらしく。首を切り落とされない限り死ねない身体になってしまったようだった。

さて。それじゃあ彼女をどうしてやろう? もはや人里へは返せない存在になってしまった。
考えた私は、彼女を保護管轄に入れることにした』


悪魔「私専属で、秘書になりませんか?」

沙也「シモン、さんが、良いとおっしゃってくれるなら…」

悪魔「不運に見舞われた貴女ですが、私は歓迎しますよ」

沙也「…よろしくお願いします」
(少し嬉しそうに)


--------間3秒--------
(沙也Nの語り)


沙也N『きっと貴方は知らない、私のこの気持ちを。
今の私はあの頃の私とは別人で、きっと彼の知る私ではないのだ。
なんという因果なのか。
私は前世の記憶を持って生まれてきた。
とはいえ、思い出したのはつい最近のことなのだけれど。

それも、私に関する記憶はほとんど持っていないわけで。
私がどんな顔だったのか、どんな名前だったのかわからないのだ。
けれども、彼が私にしてくれた事は全て覚えている。
一目だけでもこの目に映したくて、考えなしに屋敷に忍び込んだのがいけなかった。
沼に生息する悪魔の存在を知らなかったとはいえ、危険な場所へ忍び込んだ私はセイレーンに襲われ、人ではなくなってしまったのだから。
ああ、どうしたらいい?
こんな身体になったって、彼は私に気付かない。
一目姿を見たかっただけなのに。
召使いに引っ張られ、屋敷の中へ入ってからずっと気が重たかった。
けれど、彼の居る部屋に入るなりハッと息を飲んだ。
開かれた扉の向こう、目に飛び込んできたその姿は、あまりにも私の思い出と変わらない彼の姿そのものだったから。
そしてその左手には指輪がひとつ、はめられていた。
それが誰とのものなのか、今の私にはどうしても分からなかった』


--------間3秒--------


悪魔「そういえば、沙也さん。家族や恋人は?」

沙也「こ、恋人、ですか? その、居ませんけども…家族も、私は孤児育ちなので」

悪魔「ふむ。それならば、家からわざわざ通うのではなく、この屋敷に住まわれてはどうですか?」

沙也「へ!? 私が、ここにですか!?」

悪魔「ええ」

沙也「で、でも、いえ、私にそんな心配は必要ないかと思うんですけれど、その、奥様とか、嫌がりませんか?」

悪魔「妻は、随分前に他界しました」
(少し困ったように笑いながら)

沙也「…ッす、すみません! 知らなかったとはいえ、辛いことを思い出させてしまって…!」

悪魔「いえ、本当に随分昔のことですし、妻も許してくれるでしょう」

沙也「…」

悪魔「?? どうかしましたか?」

沙也「いえ! あの、じゃあ、お願いしても良いですか? これまで通り、仕事はきちんとします」

悪魔「ええ。歓迎しますよ」

沙也「ありがとうございます」


-------------------------
(悪魔Nの語り多めです)


悪魔N『妻に生き写しの彼女がこの屋敷に来て、あっという間に半年が過ぎた。
まるでいつかの光景が戻ってきたような錯覚さえ覚えている。
こんな時間がずっと続けばいい。
そう思いながらも、妻とは違う一面を見せる彼女に寂しさすら覚えていた。
そんなある日のことだった。』


沙也「あ、あの」

悪魔「…とても、お似合いですよ」

悪魔N『生前、妻が好んで着ていたワンピースを身にまとった沙也さんがそこにいた』

沙也「ありがとうございます」
(嬉しそうに)

悪魔「……日頃お世話になっていますし、沙也さんが良ければ少し外へ出かけませんか?」

沙也「いいんですかっ!?」
(食い気味に)

悪魔「え」

沙也「あ、いえ、その。シモンさんが良ければ、ご一緒させてください」

悪魔「退屈させたら承知しませんからね」

沙也「はい!」


--------間3秒--------


悪魔「さて。貴女の行きたいところへ行きますよ? 何処に向かいますか?」

沙也「えと、ティーポットが見たいです。それと、ペンのインクが切れたので、文具店にも」

悪魔「そんな事務的な用件は却下です。言いましたよね? 退屈させたら承知しませんって」

沙也「でも、私…こういうのは初めてで…その、男性と二人でなんて、何処へ行ったら良いのかわからなくて」

悪魔「…ふぅん? なら、私の用事に付き合って貰います。文句は聞き入れませんよ」
(少しご機嫌に)

沙也「はい。よろしくお願いします!」

悪魔「こっちです」

沙也「あ、ここ…」

悪魔「来たことが?」

沙也「いえ、初めてです。なんだかとても雰囲気のいいデパートですね」

悪魔「茶器ならここでも買えると思いますし、中でランチでも頂きませんか?」

沙也「何処か、オススメのお店があるんですか?」

悪魔「貴女のお口に合うかはわかりませんが、私が贔屓にしている店がありますよ。ああほら、ここです」

沙也「フレンチ・・・、ですか」

悪魔「なんです? 何か失礼なこと考えてませんか」

沙也「い、いえ! シモンさんがこういうお店って珍しいなって、思ったんです」

悪魔「たまには来ますよ。本当にたまにですが。・・・・・・席はそこが良いですか?」

沙也「あ、はい。ここで」

悪魔「・・・・・・それでは、注文しましょうか。私が選んでも?」

沙也「シモンさんのオススメをお願いします」


悪魔N『店に来ると必ず頼むメニューを二つ、注文した。
妻が好んで食べていたもので、目の前の彼女がどんな反応をするのか気になっていた。
そして料理が運ばれてくるまでの時間、たわい無いやり取りに花を咲かせる』


悪魔「最近は使用人達と随分仲が良いようで」

沙也「はい。皆さん、とってもいい人達ばかりで、すごく良くして貰って感謝してます」

悪魔「それは良かった」

沙也「ふふふ。私、あの家のみんなのことが大好きです」


悪魔N『嬉しそうに笑う彼女を見つめ、柔らかなその声に耳を傾けていると、次第に彼女が誰なのかわからなくなっていく。
彼女が選んだこの席は、生前妻がお気に入りにしていた席だった。
何か関係があるのだろうか?
運ばれてきた料理に幸せそうに舌鼓を鳴らし、とても美味しいと笑いながら、使用人達と過ごした時間を私に話して聞かせる沙也さん。
彼女は、自身の異変に気付いているのだろうか?』


沙也「そういえばこの前、出来上がったケーキを出す時に、食器棚があんまり遠くて随分あせらされたわ。キッチンが広いのも考えものね」

悪魔N『談笑を楽しむ彼女が』

沙也「シモンは台所に立つことがないからわからないでしょうけど、食器棚の配置って結構重要なのよ?」

悪魔N『私を呼び捨てにし、口調まで変わっていることに。
貴女は気付いているんですか?
今ここで笑っている貴女は、いったい誰なんですか・・・・・・───?
ブロッコリーを先に食べて、得意ではないニンニクを避けて、カボチャのポタージュスープを名残惜しそうに飲み干す。
それは、妻の癖なのに・・・・・。
沙也さん?
沙也?
今目の前に居る人間は、いったいどっちだ?
食事を終えて、会計を済ませ、外で待っている彼女の元へ歩み寄れば、ご馳走様ですと小さくお辞儀を落とされた。
そこに居たのは、私の秘書として真面目に働く棗 沙也さんだった』


-------------間3秒-------------
(沙也Nの語り多めです)


沙也N『ここ最近忙しそうにしているシモンさんは、仕事が立て込んでいるせいか、口数が減ったように思える。
そんな彼の疲れをなんとか癒せないものかと、毎日紅茶の差し入れをしている。
今日は彼の好きだったクッキーも添えて。
けれども、なかなか顔を上げようとしない彼に困り果てて、紅茶やクッキーをそのままに部屋を出ようとした。その時だった』


悪魔「お茶を淹れてはくれないのですか? せっかく、今日はクッキーがあるのに」


沙也N『慌てて振り返った先で、少しくたびれたようにしながら、それでも笑ってこちらを見つめるシモンさんを見つける。
嬉しくて、駆け足で彼の元へと向かった』


沙也「お邪魔じゃ、ないなら」

悪魔「これは、貴女が焼いたものですか?」

沙也「あ、はい。お口に合えば良いんですけれど・・・・・・」

悪魔「不味かったら承知しませんよ?」

沙也「そう言われると、不安になるじゃないですか」

悪魔「ふふ、美味しければ問題ないんですよ」

沙也「もう」


沙也N『意地悪な彼に少しドキドキしながら、クッキーを食べる姿を見守る。美味しいと思ってくれるだろうか?』


悪魔「・・・本当に、何から何まで・・・──」
(思いふけるように)

悪魔「不味かったらアレコレ仕事を増やしてやろうかと思っていたんですけどね、残念です」

沙也「良かったぁ」

悪魔「どうぞ」

沙也「え、あの、これは?」

悪魔「特別に一つ分けてあげると言ってるんです。食べなさい。ほら、あーん」

沙也「いや、それなら、自分で・・・・・・」

悪魔「私の手からは食べられませんか? 生意気ですね」

沙也「いえ! いただきます!」

悪魔「美味しいですか?」

沙也「・・・・・・はい」

悪魔「違うって、わかってるはずなんですけどね・・・・・・」


沙也N『溢された言葉は何の意味を含んでいるのだろうか。悲しげに揺れたその視線の意味が、私にはどうしても分からなかった。
時折見せるその表情は、何を隠しているんだろう?
知りたいような、だけど知りたくないような。
そんな複雑な心境に陥っていた。
そしてその日見つけてしまった、彼がずっと隠していた真実。
私が、ずっと知りたかった真実。
神様。
貴方が本当に存在するというなら、私は心から、貴方に感謝したいです。

彼の部屋を後にして、使用人達と話をしながら訪れた部屋。

部屋の中に広がった光景を見つめ、泣き崩れた私に、使用人達が驚いた様子でオロオロと右往左往した。

そんな中で私は、存在するかわからない神様に、ひたすら祈りを捧げる思いだった』


-------------間3秒-------------
(悪魔さん召使いの二役お願いします)



召使「本当に、沙也は奥様に瓜二つです。貴女がこの屋敷に来た時は、奥様が帰っていらっしゃったのかと思いましたよ」

沙也「奥様・・・・・・?」

召使「この部屋の中に飾られている奥様の写真を見たことがないのですか? 貴女お同じ顔をしてますよ。そっくりどころか、瓜二つでございます」

沙也「私と、同じ顔・・・・・・?そんな、こんなことが・・・ああ!神様・・・私は・・・・・・ッ」


-------------間3秒-------------
(悪魔N語り多めです)


悪魔N『教会へ来て欲しいと連絡を貰い、指定されたその場所にめまいを覚えた。
幾つかの墓が建てられているそこには、見慣れた後ろ姿があった。祈るようにひとつの墓を見つめている彼女。
その墓は、妻と、妻の母君が眠る場所だった・・・』


沙也「孤児で育った私には、両親なんてものは居なかった。だけど、このお墓を見た時、私の母がここに眠ってるって思ったの。実際には、別のところに建てられたお墓に居たんだけれど。それでも、私にとってはこのお墓が私の母だった」


悪魔N『私を振り返りもせず、彼女は静かに続けた』


沙也「あの人に結婚を申し込まれたのもこの場所だった。何を馬鹿なことを言ってるんだろうって、心底呆れたのを覚えてる」

悪魔「いったい何の話を・・・・・・貴女は結婚なんかしてないはずじゃ」

沙也「悪魔のくせに神様になんか誓ったりして、前代未聞もいいところよね。幸せにするだなんて言って、本当、無茶苦茶だったんだから。私の方が、彼を不幸にしたんじゃないかって思えるくらい、私は幸せに死ねたけれど」
(遠い日を思い出して苦笑しつつ、懐かしむように)

悪魔「……沙也さん、失礼ですが、その冗談はあまりにもタチが悪い」
(怒ったように)

沙也「そう。冗談に聞こえるのよ。夢だって。こんなの、現実なんかじゃないって、そう思うのが正解なのよ。でも・・・」
(悪魔の怒りを感じ悲しげに)

悪魔「沙也、さん?」

沙也「貴方は私に誓ってくれたはずでしょう? 絶対に幸せにするって。この場所で、私の母に!」
(泣き始める)

悪魔「ちょ、沙也さん!?」

沙也「ねえ、シモン。生まれ変わりって信じる?」(泣き笑いで)

悪魔「そんな、もの」

沙也「信じられないよね。私だってこれが夢なんじゃないかって疑いそうだもの。あり得ないって思ってたよ。だけど、あの家で、私の写った写真を見つけて、本当に驚いた。容姿までそっくり残して生まれかわるだなんてこと、そんな馬鹿なことって・・・」

悪魔「沙也さん・・・」

沙也「きっと貴方はこれがイタズラだって考えて居るのでしょう? きっと私の言葉なんか信じてない。だって、貴方が愛しているのは今の私じゃなくて、ここで眠っている私だものね。そして私は・・・私というものが誰なのか、自分が一番わからないのよ」

悪魔「沙也・・・? 本当に、沙也なんですか?」

沙也「わからない。夢を見ているだけなのかもしれない。私は、貴方の知る人ではないかもしれない。だから怖いの。でも、このままでいるのも嫌」(悲しげに、だけどハッキリと)

悪魔「・・・・・・」
(息を飲む)

沙也「あの日は貴方からだった。だから今度は私の番」

悪魔「え?」

沙也「ねえ、悪魔さん? よろしければ、私のこの手を取ってはくれませんか?」

悪魔「・・・・・・っ」
(静かに泣く演技)

沙也「ちょ、シモン!? どうしてここで泣くの。まるで私が虐めたみたいじゃな、ひゃあ!?」
(唐突に抱き寄せられたように驚く)

悪魔「本当に、沙也なんですか・・・」

沙也「・・・シモン?」

悪魔「あの日、貴女は私の目の前で冷たくなっていきました。それを、私がどんな想いで見送ったと・・・、もう、二度と・・・っ」
(泣いてください)

沙也「うん。私も、もう二度と会えないと思ってた。だけど貴方が信じてくれるなら・・・」

悪魔「なら、もう一度言わせて貰います」

沙也「え?」

悪魔「もう一度、私の妻になってくれませんか?」

沙也「ッッッ!!! そ、そんなの、答えなんか、決ま、って・・・っ。ふぇ、ずっとずっと、そうなりたいって・・・! 思ってたんだから!!!」

悪魔「なら、イエスと言ってください」

沙也「・・・イエス。あなたのお嫁さんにしてください」

悪魔「本当に、貴女は憎いほど愛らしい人ですね。不幸に見舞われたとはいえ、貴女はいま不老不死の身。これからは永遠に、貴女を愛して差し上げますよ」

沙也「それ、約束よ?」

悪魔「約束です。未練たらしく指輪を外せていない私の気持ちも察してください。さて、私達の家に帰りましょう」

沙也「あの指輪・・・─ 帰る、ね。ふふ・・・なんか、変な感じ」

悪魔「何がですか?」

沙也「私があの屋敷に帰るって、前は当たり前のことだったのに、今はこんなにも嬉しいの。まだ夢なんじゃないかって思っちゃう」

悪魔「ではこれから、それが現実だってことをお互いに噛み締めて行きましょう」

沙也「そうね。……ねえ、シモン?」

悪魔「はい?」

沙也「私、貴方に二度も出会えて幸せ者ね」

悪魔「なら私も、貴女を二度も愛せて幸せ者です」

沙也「ふふ。さあ、みんなが待ってるあの家へ帰りましょう」



---------END--------



お疲れ様でした!
そして、ありがとうございました!


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