艶美がお風呂から出てくると、すでに参王はベッドの中にいた。ぶかぶかスウェットを身に着けた艶美、その背中にくっつくべく潜り込む。真っ暗な部屋の中で色を変えるテレビ映像の光。その中でもそもそと掛け布団が動いていた。


「艶美」


 音量を下げてあるテレビの音にも紛れそうなくらいに小さな声で名前が呼ばれた。服の中で泳いでいる白い腕が、参王の腰へ巻きつけられる。しなやかな動きで。


「明日は、手伝いに行くのか」


 艶美は時折、整体院の受付アルバイトに行く。参王が勤める薬屋の店主が経営している獣人向けの整体院だ。ヒトの姿で負荷を感じる獣人のために開いた場所で、なかなか評判が良い。


「うん。天気もいいみたいだし、たくさん厚着していく」


 変温動物の性を持つ艶美。低い気温や気圧に影響されやすい。天気予報は好天で、気圧もさほど低くないと言っていた。それを思い出しつつ、参王の背中から温もりをもらい、心地よさそうに目を閉じる。明日の朝も充電させてもらうつもりだ。蛇の姿で服の中に入って温めてもらうと特別、体温が保てる。


「体調に変化があったら、無理しないで呼べよ」
「わかってる。ありがとう」


 静かな参王の声に合わせると自然、声が小さくなる。まるで誰にも聞かれないようにするかのようにひそひそと言葉を交わす。


「艶美は無理するから心配だ」
「大丈夫だよ。もう、しない」


 以前、気温が低い中で働いていて体調に変化があったにも関わらず続けた結果、倒れたことがあった。参王はそうなることを心配しているようだ。
 大丈夫だよ、と繰り返し、腹のあたりを撫でる。しなやかな腹筋のハリを感じる。気持ちがいいのか、ぐるる、と喉を鳴らした。猫みたいで可愛い、と微笑む艶美。


「参王、ぎゅって、して」


 背中に話しかけるとすぐに身体の向きが変わった。正面から抱き締められ、包み込む温かさに身を委ねる。目を閉じると愛しい番の息遣いや鼓動を細かく感じた。合わせて息をすれば、溶け合うような感覚。満たされ、たまらなく幸せになる。


「艶美、寝るのか」
「うん。おやすみ、参王」
「おやすみ」


 呼吸を合わせたまま眠りに落ちる。ふわふわと温かな眠りはとても心地良かった。
 あどけなく眠る艶美の額へそっと口づけ、頬を寄せる。


「……愛してる」


 そっと口にした言葉は物足りなかった。
 愛している、は少し違う。もっと深い何かはないのか、考えてみた参王はなかなか寝付けなかったようだ。


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