鬼島さんはよくコーヒーを飲んでいる。そしておれといるときは最近、煙草を吸わない。おれが寝たあと、とかには吸うみたいだ。その代わりに飲んでいるのかもしれなかった。


「吸ってもいいですよ」


 と言っても


「ナツくんとちゅーしたくなったら困るからね。煙臭いのも嫌でしょ」


 と言う。禁煙しようかな、と言い出した。煙草を吸っている鬼島さんが実は結構好きなので、吸っていてほしいのだけれど健康にはよくない。迷うところだ。
 今日も、朝起きてパンを食べながらコーヒーを飲んでいる。お砂糖もミルクもなしの黒い液体。飲んだことがないのでどんな味なのかはわからないけれど、コーヒーゼリーは好き。黒くてぷるぷるしていて、とろとろしていて好きだ。


「ナツくん、目玉焼きあげる」
「ありがとうございます」


 おれはご飯を食べていて、でもパンを食べているさくさくした音に惹かれているので二杯目は食べないでパンを貰うつもりだ。談さんはどうやら気付いているらしく、隣でご飯を食べながら「ナツさんのためにパン焼いてきますから、いいところで声掛けてくださいね」と言ってくれた。自分でやります、と言っても談さんは「やらせてください」と言うからなかなか難しい。


「鬼島さん、コーヒーっておいしいですか」
「んー? おいしいような不味いような。いいのと悪いのとあるかな」


 いちごやぶどうみたいに良し悪しがあるみたいだ。果物と同じなのかもしれない。


「談が淹れてくれるコーヒーは大体おいしいけどね」
「ありがとうございます」


 嬉しそうな談さんの横顔は今日もきれい。しゅっと鼻が高くて、唇がぷりっとしていて。


「ナツさんも飲んでみますか」
「ナツくんにはまだ早いよ。大人の味」
「カフェオレとかどうでしょう。牛乳とお砂糖たっぷり入れればナツさんがお好きな味になるんではないでしょうか」
「……十時になったらね」
「飲んでみたいです、おれ」


 今日の十時にコーヒーデビューができそうだ。未知の味にふんすふんすしながら、ご飯一杯と食パン三枚食べた。ご飯が今日もおいしい。

 後片付けを手伝って、鬼島さんと書斎でのんびりする。午後は一緒にお出掛けする予定だけれど、午前は特に何の予定もない。座椅子に座った鬼島さんと向かい合う。その傍らには飲みかけのコーヒーがあった。


「ナツくん」
「はい」
「キスしようか」


 コーヒーを飲んだ後の鬼島さんの舌は苦かった。眉を寄せると、やっぱりナツくんにブラックは早いね、と笑う。


「でも、おれが甘いものを食べたら鬼島さんとキスしても大丈夫です」
「そうねえ。でもナツくんが苦い思いするのはちょっと嫌だな」


 数日後、コーヒーを飲む鬼島さんとキスをしたらほんのり甘かった。


「社長は最近微糖派になりましたね」


 と、談さんが言っていて、おれは思わず真っ赤になったのだった。


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