婪(らん)
禄寿(ろくじゅ)





 天気の好い午後、ぱちぱちと火が爆ぜる暖炉の傍できりりとした顔の銀毛豊かな狼・婪が寝そべっている。その背中を枕にすうすう眠る小柄な少年・禄寿。
 婪は時折、禄寿の寝顔を眺めた。寒くはないか、寝苦しそうではないか、様子を注意深く見守っているようだった。
 ぱちん、大きく火が爆ぜる。
 それを忌々しそうに見る婪。火が気弱に勢いを失う。ふるりと震えた禄寿が、毛並みに手を添えた。がる、と喉を鳴らせば、先程よりも火の勢いが増す。あかあかと燃える炎に、満足げな鼻息。


「……らん…」


 眠そうな声が婪を呼ぶ。いる、とでも言うように手の甲をぺろり。安心したような寝息が再び聞こえてきた。
 平和な時間。婪も一緒に微睡んでみる。
 夢の中でも大好きな禄寿と遊んだり、川に魚を捕りに行ったり、山の実りを採ったり。当たり前の日常がとても愛しい。

 ヒトの姿になった婪は小さな禄寿の身体を抱いて、木の陰で休む。禄寿は無防備な笑顔を見せて、かごの中のものを選別していた。すぐ料理をするもの、漬けておくもの、干すもの。禄寿は余すことなく山の恵みを使い切る。赤い実をひとつ、婪の口に入れてくれた。甘酸っぱい、爽やかな味わい。婪も真似して禄寿の口へ入れた。


「おいしい」


 笑うだけで幸せになる。一生を添い遂げたい唯一の相手が禄寿だ。だからいつも笑っていてほしい。喜ぶならなんでもする。我が身のことなど構わない。


「ゴシュジン、好き」
「うん」


 そこから先は、聞くことができなかった。目を覚ましてしまったからだ。目を開けた婪は、ふん、と鼻を鳴らした。残念だ。
 婪が目を覚まして間もなく、禄寿も起きた。しかし横になったまま、ふさふさとした毛並みを撫でたり顔を埋めたり。くすぐったさにあぅんと鳴くと、穏やかな禄寿の顔が見えた。


「婪、枕になってくれてありがとうな」


 ぱたぱた、尻尾を左右に振る。大好きなゴシュジンに礼など言われたら嬉しくなってしまう。いい香りの手に優しく鼻先などを撫でられ、ますます尻尾が振れた。


「だいすき」


 あぉんと答え、むずむずする身体を抑える。ヒトになって抱きしめたい。でも、まだごろごろしている禄寿の枕になってやりたい。尻尾を揺らしながら、なんだかまだ眠そうな愛しい人の子を抱くようにしっかり尻尾を宛てがった。


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