「真紅の瞬き、漆黒の輝き」


 化粧品のCMに、蓬莱が出ていた。笑みのない顔で自らの瞼や唇へ、指で無造作に色をつける。その様子は確かに美しくて目を引いた。
 その当人は現在、談の隣でうとうとしている。ベッドに座り壁へ背中を預けてクッションを抱いて、今にも寝そうだ。肩が触れるか触れないかの距離にいる蓬莱と、先程のCMに出ていた男とが同一人物であると思うと、なるほど俳優とはすごい職業なのだな、と感じた。別人のような顔を見せることが仕事なのだ。


「蓬莱、寝るならベッドで寝ろよ」


 声を掛ける。うん、と聞いているのかいないのかわからない声が返ってきた。


「蓬莱」
「まだ談くんと座ってたい」
「明日もあるだろ」
「今日座ってたいんだもん……」


 うとうとしながらそんなことを言う。明日は蓬莱が半日オフで、午前中は一緒に家にいる予定だ。のんびりしたい、という希望を聞いた結果である。



「嬉しいけど、無理するな」
「無理じゃないもん」


 一瞬目を開けてしゃきっとしたが、すぐにまた萎れて元通りに。ふぅ、と息を吐いた談。蓬莱の顔を覗き込むように、動く。


「寝ような」
「寝ない」
「寝よう。オレも寝るから」


 だんくんねるの、とふやふやした声が聞こえた。寝るよ、と返す。じゃあ俺も寝る。と返って来る。洗面台の前の狭いスペースに立ち、横並びで歯を磨いたあとに電気を消し、ベッドへ入った。薄いタオルケットを腹に掛け、扇風機を回しながら横になっているとすぐに眠気が襲う。大抵後ろから抱きついてくる蓬莱が今日はおとなしくて、余程眠かったんだな、と思った。じっとしている。代わりに抱きついてやろうかとも思ったけれど、眠いところを邪魔されるのは自分も嫌なのでただ背を向けた。壁に対面する形で目を閉じる。


「だんくん」


 暗闇の中でぽつんと声がした。


「どうした」
「今日もいっしょにいてくれてありがとう」
「こちらこそ」
「明日もいっしょにいてね」
「ああ。蓬莱もな」
「うん。おやすみだんくん」
「おやすみ、蓬莱」


 すぐに寝息が聞こえてきた。身体を起こし、仰向けになって眠る顔を見る。見ながら、蓬莱の顔の整い方は心根の良さから来ているのではないだろうか、と考えていた。心が良いから、顔も良い。どちらも皆が認める蓬莱の良さ。暗がりの中でも光るみたいに顔が見える。きれいな顔だ。

 愛してる、と口から出しかけ、やめた。起こしたら申し訳ない。こんなに幸せそうに眠っているのに。蓬莱はどんな状態でも、自分の声を聞いていると知っているから、静かにただ見ているだけにした。


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