速が傍にいるようになって、俺は随分わがままになった。
「まだ足りない」
「もっと」
指先だったのが手首になり、首筋になり。最初はうまく吸えなくて零したりもして、でも速が優しく宥めてくれて「ここからなら上手に吸えるはずだ」なんて誘導してくれた。毎日果物を食べてばかりいる甘い血は、飲めば飲むほど乾いてしまう。
「まだ、もっと」
首筋に食らいついて吸っていたら、速にやんわりと腰を持って押された。途中だったのに、と抗議の睨みつけ。それは穏やかな笑顔に吸収されてしまって、うぐ、としか出なかった。
「一気に飲み過ぎると腹壊すだろ」
「でも、まだ」
「飲むなとは言ってない。少しずつな、って言ってる」
よしよし後頭部の辺りを撫でられて、唇に滲んだ血を親指で柔らかく拭われた。確かに、一度にたくさん飲むとお腹が痛くなる。でもそれを言ったことはなかったはずで、なんで知っているんだろう。顔を見つめると優しく笑ったまま、首を傾げる。
「どうかしたか」
「……速はなんでも知ってるんだな」
「秋芳のことだけはわかる。よく見てるから」
抱きしめられて、ソファの上でごろりと横になって密着する。速の身体の上に乗る形になり、重くないか、と尋ねたら、心地いい、と返された。確かに体温が心地いいけれど、お腹がぐう、と鳴る。満たされない空腹が叫びを上げている。
「速」
「まだ。もうちょっと我慢」
「やだ」
「少し」
「やーだぁー」
「秋芳の気が紛れるようなこと、してやろうか」
言うが早いか顎を捉えて唇が合わせられる。腰の辺りを抱いていた腕が動いて、裾から手が忍び入ってくる。速との性行為は気持ちよくて好きだ。血を飲むことの次くらいに満たされる。最初は恥ずかしかったけれど、今は大好き。上手にできた後に貰える花の味は爽やかですっきりしていておいしいことも知った。
「あき」
キスの合間に速が呼ぶ。血みたいな甘い声で。背骨を指先で辿られ、わずかに顎が反れた。キスをしてほしいのにぞくぞくが止まらない。
「腹が減って、セックスがしたくて、忙しいな?」
からかうみたいな声だった。
「速のせいだろ」
首元に顔を寄せると濃厚な血の香り。再び腹が鳴る。なんだか悲しくなってきて、泣きたいような気持ちになり始めた。背中を撫でるばっかりで全然気持ちよくしてくれないし、血はくれないし、酷い。
「速の意地悪」
「声が泣きそうだ」
「泣きたくもなる。腹は満たされないし、気持ち良くしてももらえないし」
「ぐずるか。それはそれで可愛いけどな」
明らかにあやす目的で背中を撫でられ、身体をゆったり左右に揺らされる。
「どっちも足りない。早く満たして」
「わかった」
満たしてやろうな、と囁く。
「順番に」
「順番」
「ああ、順番」
どっちからがいいかな。
笑う速を急かす。どっちでもいいから早くして、と。
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