北山と恋人・波積(はづみ)については@ABCをドウゾ。
痛悲しいようなお話ですのでご注意を。





 なんだかんだと休みをもらい、季節ごとに一度は必ずやってきている山の中。今日も車を走らせて、満和さんから貰ったお土産と共にやってきた。療養施設にいる恋人の元へ。朝から一緒に過ごし、散歩をしたり本を読んでやったり、食事をしたり。風呂に入って薬を飲んだ波積と一緒にベッドに入る。


「はづ、電気消すぞ」
「うん、はい」


 ベッドの頭側の壁にあるスイッチを押し、電気を消す。消灯した直後の数分間は青い光がうっすらと灯る方式の室内灯で、暗闇にはならない。なので、潜るとすぐ隣の波積の顔が見えた。とても可愛らしく微笑んでいる。


「どうした」


 ふわふわと緩く癖のついた黒髪を撫でる。俺以外の人間に髪を触られるのを嫌がるので、切られることのないまま伸びている。そろそろ切ってやらねば、と思いながら撫でていたら、腕が伸びてきて抱きしめられた。波積の髪が、顎の辺りをくすぐる。


「まほさんが夜もいるから、嬉しくて」
「もっとな、来てやれたらいいんだけど」
「ううん、大丈夫です。いつもお手紙くれるから」


 波積の口調はいまいち定まるところがない。敬語のときは少し疲れているとき、調子が悪いときで、そうではないときは比較的調子が良く、頭の中もすっきりしているときが多いように思う。今日は半々だから、それなりに疲れているのだろう。
 頭の天辺あたりへ口付ける。


「手紙だけ送って本体が来ないのもどうかと思うが」
「本体に会うのは、一番の楽しみ。だから、何か月かに一回でもいいです」


 ふかふかした波積の身体を抱きしめる。痩せているのに、妙に柔らかく感じる波積の身体が心地いい。


「はづ、結構疲れてんな今日」
「疲れてないです」
「そうか。早く寝よう」
「もったいないです」
「明日もいるから無理しねぇで寝ろ」
「ううー」


 掛け布団の上からぽんぽん叩いて寝かしつけようとしたら、やだやだ、と身体を震わせる。


「身体痛くなったりしたら、明日俺と遊べねぇぞ」
「む、それは困る……でもまほさんともっとはなしたい」


 鎮静剤も飲んでいるし、じわじわと効いてきて眠くなってくるはずだ。それまでは相手をしよう、と決めて、早く寝かしつけるのはやめることにした。


「何話すんだ」
「まほさん、ありさわさんとみわくんと仲良し?」
「ああ」
「みわくんかわいい。お土産のチョコレートおいしかった」


 満和さんが持たせてくれたのは、一口サイズのチョコレートだった。溶けやすいものだったので、波積でも食べられた。


「かわいいな。はづに似て」
「似てる?」


 黒目がちな大きな目だとか、お人形フェイスなところとか、実は好奇心旺盛なところ、無邪気なところ、色々と、ある。


「かわいいってことは、まほさんはみわくんが大好きだね」
「ああ。守りたいって、思う」
「いいな、みわくん」
「嫉妬か」
「んーん」
「してくれねぇの」
「まほさん、ひとを守るのすきだから」


 胸が痛んだ。波積を守れなかった過去が刺さっていて、多分すっかり膿んでいるその場所に言葉がしみる。


「まほさんは、いつも守ってくれる」
「はづは、」
「守ってくれてるから、今ここにいるんだよ」


 思い出さないでほしい、過去のこと。ここに来る前のことは忘れたままでいい。願いはそれだけで、波積が今のままいてくれたらいいと思う。ゆっくり息を吐いて、


「……守るからな、次は」


 思ったより、ずっと情けない声が出た。
 なのに、波積は首を横に振る。


「ずうっと守ってくれてるから、充分です」
「……もっと守る」
「うん」


 波積が腕の中でうとうとし始めたのがわかった。薬が効いてきたようだ。


「はづ、寝るか」
「まだはなしたいー……」
「また明日にしような。おやすみ」


 ちゅ、と前髪の辺りにキスを。すると波積の唇が胸元にくっついた。あむあむと動き、それが止まって寝息が聞こえてくる。
 真っ暗になった部屋の中に、すぅ、と規則正しい音がする。温かな体温が愛しくてたまらない。しっかりと抱き直し、髪へ頬を寄せた。


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