「寝るなーあーちゃんは」


 実に寝るなあ。
 独り言を言う道。ベッドにはまだまだ目覚める気配のない雷が眠っている。移動中も起こさない限り寝続けるので、睡眠に対する執着心は相当なものだ。特に動かず、ただじっと布団に埋もれているので不安にもなるが、息をしているのでよしとしている。


「……起こさなかったらいつまで寝るんだ」


 ふと思い当たった疑問。起こすと起きる。では起こさなければどうなるのだろう。明日くらいまでは寝続けるのか、案外早く目を覚ますのか。どうせ今日は休みで、何をする予定もない。ならば好きなだけ眠らせてみよう。
 通常通りの生活を、雷が眠る隣で送った。音をたてても、目覚める様子はない。道が出かけて二時間ほどで帰ってきてもまだ寝ていた。同じ格好で、延々と。

 夕方、夕飯の準備を終え、ベッドに寄りかかって本を読んでいたら後ろで「うう」という声がした。夕方六時、まあ予想よりは早かった。本を床に置いて振り返る。


「……なんかあちこちが痛い……」
「そりゃそんだけ寝ればな。水飲む?」
「飲む……」


 常温の水を差し出してやる。のろのろと飲んだ。一瞬だけ触れた手は寝起きだというのに冷えていて、寝ながら寒かったのかな、と思う。


「すごいいっぱい夢見た気がする」
「疲れ切ってる」
「夢疲れ。……今何時?」
「六時。外は真っ暗夕方」
「なんで起こしてくれないの」


 むっとした様子で言う雷に首を傾げる。


「なんか予定でもあったのか」
「ないけど……道と一緒にいる時間が減っちゃった」
「毎日一緒じゃん」
「そうだけど」


 そうだけど、ともう一度繰り返し、ペットボトルを両手で揉む。むちりとした身体をもじもじさせる様子はたまらなく魅力的だ。道にとっては。
 ベッドに座り、雷の頭を撫でる。同じ色の髪は、自分のものと質感だけは違っていた。雷は幼いころから同じを求めた。髪の色だけではなく、ピアスの数もタトゥーの数も、たばこの銘柄も、何もかも。それを嫌だと思ったことはなく、当たり前だと今日まで思っている。

 頬に触れると、ふふふと笑った。


「一日、あーちゃんの寝顔が見られてよかったけどな」


 そう言えば真っ赤になる。


「うう……おはよう、道」
「おはようあーちゃん。キスする?」
「しないっ」


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