胸に耳を付けると音が聞こえた。血液を全身に送っている音だ。曽根くんが生きている音で、とても尊い音だ。


「……楽しい?」
「楽しいよ」


 牛乳が入ったカップを片手にじっとしたまま、胸の音を聞かせてくれている曽根くん。動けば、音が変わる。変わってもいいのだけれど動かないでいてくれた。


「ミンの音はどんなだろな」
「曽根くんより弱いかも。鍛えてないし」
「そうかぁ? 歌ってるっちゅことはえれーかったりーことだと思うけど」


 曽根くんが喋ると胸も一緒に震えた。響いて、少し違って聞こえる声。


「心臓はどうでぇ」
「どきどきしてる。今は少し早いかも」
「そりゃー、可愛いミンにくっつかれてるからな」


 繊細な音を出す指先を備えた手が、ゆっくり髪を撫でた。最近手入れをさぼりがちな黒いきのこのような髪型。可愛い、と曽根くんが言ったから、もう長く同じような髪型でいる。人と目を合わせるのが苦手というのもあって、なるべく目が見えないように、ということでこれにしたい、というのが最初の動機だけれど。
 曽根くんと一緒にいると、苦手な部分をカバーしてくれるのでとても居心地がいい。苦手なことはやらなくていい、その代わり歌はいつでも全開で歌えと言う。好きなことを好きなようにやれるのは素晴らしいことで、でも苦しい。うまく音が決められないときとか、曲が出てこないときとか。でもその苦しさも、楽しいにすぐ変わる。


「ミン、何考えてる?」
「いろいろ」


 力強い曽根くんを動かしてくれる心臓は規則正しい。曽根くんと同じだ。持ち主に似るのか、内臓に似るのか。


「ほれほれ。そろそろくっつくならこっちにしてくりょ」


 こっち、と言ってカップをカウンターへ置き、身体を抱き上げてくる。首に腕を絡ませると、そうそう、と笑った。


「掴まってろしー」


 カップを持ち直し、寝室へ向かう。朝早いのに、先程起きたばかりのベッドへ逆戻りだ。柔らかく、寝転がされた。


「一日ごろごろすんのも悪くねーら」


 壁に立てかけられたギターを見てから曽根くんを見る。ベッドへ座って、牛乳をようやく飲んで。ギターを持って適当な音を弾く。


「ミンちゃんに曲をあげましょう」
「どんな?」
「なんか……陽気なやつ?」
「決まってないなら心臓の音みたいな音にして」
「難しいこと言うわ」
「がんばって」
「おう」


 こんな感じかな、と低い短い音を出す。その音は心臓の音というより子守歌のようで、なんだか眠たくなってきてしまった。



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