「芳樹、よしき。撫でて」
「よしよし」


 頭を撫でられ、ぐるる、と喉を鳴らす若虎。いかにも媚びた音が気に障る。こたつにあたっている芳樹の後ろに寝そべっているのは黒豹の晴万で、眠っているらしかった。たまに鼻の辺りを撫でられ、幸せそうな寝顔で動かない。その様子を少し離れた椅子から眺める。芳樹、顎も。とねだる咲々の、だらしなく緩んだ横顔に噛みついてやりたくなった。
 芳樹はオレの番だ。同時に咲々と晴万のでもあるが、一番最初に番ったのはオレ。間違いなく順序は上のはず。けれど芳樹は平等に可愛がる。甘えてきたり、甘やかしたり。それは当たり前のことだとも思うが、たまにとても気になることがある。独占欲でいっぱいになり、今のように咲々も晴万もかみ殺してやりたくなるようなときがあった。別に普段からそれぞれを憎く思っているわけではない。晴万は可愛いと思うし、咲々は生意気な息子のような気持ちでいる。けれど時々、その二人が疎ましい。


「清孝さん、怖い顔してるね」


 芳樹のことが憎くなることはない。今みたいに笑いかけられると身体を擦り付けたくなる。どろどろと憎む気持ちが浄化されるようだ。


「怖いか、顔」
「うん、結構怖い。その本難しい?」


 本そっちのけで、芳樹を見ていた。内容など一片も頭に入っていない。芳樹の傍らで咲々が首を縮こまらせる。どうやらオレが腹を立てているということに気付いたらしい。野生の勘というやつだろうか。晴万も目を覚まし、芳樹の陰に隠れるように身体を移動させた。


「別に難しかねぇけど」
「そうなの? それにしては険しい。何か悩み事かなって思う顔だけど」 
「ねぇよ」


 はあ、と息を吐けば、咲々が逃げた。噛まれる前に逃げるのは賢明なことだ。晴万ものっそりと居間を出て行く。急に解散した二頭を不思議そうに見送り、芳樹がまたこちらを向く。


「みかん食べる?」
「いらねえ」
「じゃあどうしようかな。頭撫でる?」
「おう」


 本を投げ出して隣へ座り、頭を撫でてもらう。匂いを嗅ぐだけで随分満足だ。オレの匂いがすっかり身体に染みついて、芳樹の元々のそれと混ざり合っている。とてもいい気持ちだ。そしてその周りに纏わりつくような、二頭の香り。まだ少し薄くて、オレのには敵わない。


「清孝さん、やきもち?」
「なんでだ」
「咲々と晴万と仲良くしてたから」


 そうだよ、と言うことはしなかった。不自然にも無言で貫き通す。もし芳樹を奪って二人きりになりたい、などと言ったら芳樹はどんな反応を見せるだろう。咲々にとっても晴万にとっても、芳樹がいなくなるのは死も同然。もちろんオレも。もし二頭が嫌だったら、とっくにそうしていたことだろう。けれど芳樹が好きだと言うからそんなことはしない。


「ヨシ」
「ん?」
「耳も撫でてくれ」


 そう言って、獣型を取る。芳樹の指が耳の辺りをごりごりと撫でた。
 今の気持ちとしては、このまま芳樹を噛んで腹に収めてしまいたい。腹の中に入ってしまえば誰に奪われることもない。
 けれど芳樹が「気持ちいい?」と笑うから、がる、と鳴くだけにしておいた。


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