小説 | ナノ

青年ひとりとオス三頭 10*


 

晴万(はるま)
芳樹(よしき)





 静まり返った山際の家。元旅館だけあって大きく、存在感がある。
 普段ならば明かりがついているはずの二部屋が今日は真っ暗、気配もない。そう、清孝は出張、咲々は研修旅行で帰らない。つまり家には芳樹と晴万のふたりきり。普段ひっそりと控えめな晴万はここぞとばかりに芳樹にべったりだ。どちらも衣服は身に着けていない。デートして帰宅して、お風呂に入って全裸のままで晴万の部屋へやってきた。
 黒く艶のある、背の低い家具が置かれた部屋の中。他の獣人ふたりと同じ低いベッドで褐色の腕に絡みつかれた芳樹。華奢な背中を抱きしめて、求められるままに唇を重ねる。唇の右上、きらりと光るシルバーのボールを軽く舐めて吸って、またキスをして。晴万の目を覗き込むようにすると、幸せそうに微笑む。


「晴万、かわいい」


 いつも少し困ったような微笑み方。それに毎回きゅんきゅんしてしまう芳樹はきゅうっと抱きしめた。力を入れすぎないように、慎重に。


「わたし、芳樹より頑丈なのに」


 おかしそうに笑うけれど、そういうことではない。


「気持ちの問題」


 そう伝えて、身体を撫でた。滑らかな肌、引っかかる場所はない。時折骨の凹凸があるくらいだ。獣型のときも黒い毛並みは艶やかで、日ごろからとても気を使っている賜物なのだろうな、と思う。
 芳樹が肌を撫で始めると、晴万の手も遠慮がちに芳樹に触れた。確かめるように、時折圧される。


「芳樹の身体は筋肉がよくついてるわね。きれい」
「清孝さんとか咲々と遊んでるからかな」


 獣型のふたりにじゃれられるとそれだけで結構体力を使う。山の中を駆けまわったりしているうちに自然と身体が引き締まり、お腹も空くし気分転換になるからなかなか良いのだ。晴万はうちの中でおとなしく待っていて、帰ってくるとぺろぺろと手足を舐める。それから身体をこすりつけ、清孝と咲々の濃い匂いにちょっとだけ嫉妬を見せる。

 今日は風呂に入ってちょっといちゃいちゃして、身体に晴万の匂いしかついていない。きっと咲々の鼻にはしみ込んだ匂いがわかっているだろうけれど、一番濃いのは晴万のものだ。満足そうにぐるぐる喉を鳴らし、腰のあたりを意味ありげに撫でた。

 晴万の身体をまたいでいる芳樹が、上半身を起こす。


「晴万、興奮してる?」
「ええ、とっても」


 引き締まっていて丸い尻が、腰の前あたりに擦りつけられる。そこにはすでに晴万の兆したものが存在を主張していた。そこを尻がゆっくり上下する。健康的な芳樹の身体が、性的な動きを見せる。晴万の、いつも穏やかな目へ僅かに野生の光が見えた。


「そういう目のとき、清孝さんも咲々もがつがつするけど」
「わたしはそういうの、好きじゃないの」


 知ってるでしょ、と言って、太腿を撫でた。
 褐色の指が白い内腿を揉むように動く。ひく、と揺れる芳樹。


「ゆっくり、しましょうね」
「うん」


 身体のあちこちに触れて、たまに敏感なところをかすめて、お互いを観察しながらじっくりと空気を共有する。清孝や咲々はそういうことは後回し。それでも十分な満足を与えてくれるが、晴万は時間がとても長い。少しずつ高めるような、人間にしても遅すぎるほどのセックス。
 先に焦れるのはいつも芳樹で、勃っているそれを手で掴むと目を丸くして、手のひらでゆったりと芳樹の頬を撫でた。


「芳樹、まだ駄目よ」
「なんで」


 すっかり目を潤ませ、困ったような顔をするのに微笑む。優しげで、穏やか。そしてやっぱり困ったような笑い方。口を動かすたびにきらきらとボールが光る。


「あのふたりにがつがつされすぎだわ。もっと、我慢すること、覚えましょうね」


 ふふ、と笑う。肩をすくめた芳樹が、手を離した。するとすぐに褐色の指が、勃ち上がった芳樹のものに絡む。扱くわけでもなく、ただ指先が緩やかに、汁を滲ませている口を擦るだけで。
 びくびくと跳ねる身体を見て、片手が尻を揉んだ。


「ん」
「嫌い?」
「嫌いじゃない、けど……晴万」


 腰を振って卑猥に誘う。愛しのヒトのいやらしい様子に晴万はうっとりと見惚れた。健康的で快活な芳樹のこんな姿が見られるのは、今は自分だけ。そう思うととても幸せな気分になる。もちろんほかの二頭も見ているけれど、それぞれまた異なった様子であるはずだ。
 晴万は上半身を起こし、壁へ背を預けた。腰を浮かせた芳樹が、晴万がずれた分だけ膝でにじり寄ってくる。首へ腕を絡ませ、どちらからともなく引き寄せ合って唇を合わせた。

 キスをしながら、芳樹の腰が晴万を探る。
 そして、腰を落とした。
 馴らしもしないのに、番の、ヒトのものとは大きさを異にしているそれをすんなりと身体に銜え込む。慣れていること、それから、番のフェロモン。受け入れる側の負担を減らすようになっている、ある種の進化。

 しかし晴万は動かない。
 だから芳樹は自分で動こうとしたのに、腰をがっちりつかんで止める。視線が絡む。芳樹は晴万の肩に顎を乗せ、深く息を吐いた。奥にあたって中が満たされて、緩くとも奥を突いてほしいのに、動かない。だからゆっくり揺らした。擦れて気持ちいい。


「芳樹はかわいいわねぇ」
「かわいいと思うならご奉仕して」
「そうね、そろそろいいかしら」


 よしよしと頭を撫でられる。普段とは逆だ。中を突かれて心地いい。腹の奥底から湧き上がる、震えるほどの快感。番の体液はヒトの身体にもしみ込む。番との時間が経って起きるいくつかの変化のうちの一つだ。
 水音が鳴る。
 濡れないはずの場所が、ぐちゅぐちゅと。
 柔らかく温かく、食むように震える中に目を細めた晴万は雄の気配を放っていた。それにもうっとりする芳樹。


「はるま、きもちいい」
「そう? よかった」


 強く抉られるわけでもない、けれど熱いような感覚が腹の底を揺さぶる。べったりとくっついたままで、中が従順に晴万を求めていく。


「芳樹」
「ん?」
「幸せ」
「うん、俺も」


 晴万に触れているところからじわじわと伝わる熱。中も外も、溺れそうに幸せだった。指の先まで温かさに満たされる。


「晴万、ちょうだい」


 貪欲なヒトを愛しげに抱きしめ、
 好きよ
 愛してる
 何度も何度も囁くと、手で支えている背中が震えた。


「ん、っ、」


 小さな呻きと、思わず眉をしかめてしまうほどにきつく絞られた中。とろりとした粘液が晴万の褐色を濡らす。


「きもちいい」


 ぼんやりした声を聞きながら、細い指に掬って精液を口に運ぶ。甘いような塩辛いような、番の濃い体液。身体に入るとすっと重さが抜ける。
 残さず舐めて、きつい中に反り返った自分の身体の一部を出し入れする。ゆっくりとした動きで。
 晴万が中に出しても、何も変化はない。
 ただ芳樹が好きだからそうするだけだ。


「晴万、でる?」
「そろそろ、ね」
「だして」
「うん」


 頬にキス。
 甘えるように舐めて、腰を緩く速く、振る。
 中に出される感覚がある。通常より熱い体液。


「っ、」


 満足そうな、淫らな笑み。その顔が好きで晴万はじっと見つめた。


「は、んん、」


 滑らかな液が幹を伝う。中に出されて染み出した興奮。再び、指に絡めて口へ運んだ。


 疲れ切った芳樹の身体を、黒豹になった晴万がぺろぺろと舐める。肉厚の滑らかな舌が辿る身体。しなやかな凹凸の端まで舌を入れ、軽く甘噛み。
 しなやかに寝そべった黒い毛並みへ顔を埋め、身体を寄せ、抱きついてそっと目を閉じた。満足感に身体を浸して。





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