恋する本の虫 2*
鳥尾 朝霧(とりお あさぎ)
在濱 炎(ありはま えん)
*
閉館後の図書館。
事務室だけが明るく、まだ職員が数人いる。その声がかすかに届く二階の奥、暗い専門書の棚の影で動く人影。
「ん、はぁ、っ、や」
押し殺した喘ぎ声、息さえも抑えようとする涙目の少年。乱された制服の下を這い回る大きな手のひらは本に対する優しさを保ったまま、しかし強引に肌を暴く。
「嫌? 嘘はいけませんね」
耳元に流れ込む、普段とほとんど変わらない低い囁き。手の感触も声も、昼間と一向に変わらないのに自分だけがおかしいみたいだ。と、余計に恥ずかしくなって頬も身体も熱くなる。
「ふぁ、っ」
「しー」
「んっ、む」
「うん。そうしていてくださいね」
自らの手のひらで口を覆う姿を満足そうに見た、在濱。優しく笑って床に膝をつく。とうに寛げられた前、露出しているのは下着。鼻先をそこへすり寄せ、息をする。
「ここをこんなに濡らしていやらしい匂いをさせて、若い子は敏感だ」
唾液を塗りつけるように舌が何度も上下する。勃ち上がった若いそれの裏筋を刺激されるとたまらないようで、必死に押さえた声が聞こえてきた。
普段は鋭い目を緩ませ涙で覆い、眉間にしわを寄せても迫力はない。暗がりであまり見えないのが残念なくらいに可愛らしい淫らな顔。
鳥尾は自分の身体つきが厳ついとか顔が怖いなどということを気にしているようだが、独特の愛嬌があるのをわかっていない。大きな身体を丸めておどおどしたり、すぐ泣きそうになったり、怖がったり、照れたり、恥ずかしがったり、喜んだり。
つぎつぎ表情を変えるさまが好ましいと思われているなど、本人は一切感じていないように見える。その無頓着さも可愛い。
本当は家に連れて帰るつもりだった。しかし暗がりで一度口付けたら我慢できなくなってしまった。弄り回したい。そう思って止められなかったのである。
年甲斐のない欲情ぶりを目にして、在濱は自分に苦笑い。
下着から出したそれを口に入れる。わざと音を出してやると、震えながら頭に手が添えられた。
「だ、おと、きこえちゃ、」
「いいじゃないですか」
「だめ、」
強く吸うと息が詰まった。また声を出しそうになったのか、手のひらを強く押し当てた。もう片方の手は在濱の柔らかな髪を緩くつかむ。
「ここで、最後まで、しますか」
ちゅぷ、と、いやらしい水音が鳴る。鳥尾は首を激しく横に振って嫌がった。
「人に見つかるのは嫌? もうすぐ誰もいなくなるので心配ありませんよ」
「……いや、です。うちが、いい……こんな暗いと、在濱さんが見えない……」
かすれた声、在濱は笑って一際強くそれを弄った。腰を震わせ、口の中に精を注ぎ込む。
「顔が見えないのは嫌なんですね」
「や、です」
「じゃあ家へ帰りましょう。ここではあなたの声も満足に聞けませんし」
服を手早く整えてやり、髪を撫でる。上気した肌、潤んだ目。よく見えないのが惜しい。キスをしようとして、寸前で唇が止まった。
「……精液を飲んだ口でキス、は嫌ですよね」
そう囁いて頬を擦り付ける。
「裏口が開いていますので、そちらから出てください。歩けます?」
鳥尾は頷き、先にゆっくり歩いていった。
それを見送り、階を見回って何食わぬ顔で事務室へ。帰ります、と声を掛けると職員のひとりが首をかしげた。
「なんだか機嫌が良さそうですね。これからなにかあるんですか」
「ええ、まあ。とてもいいことがあるんです」
そう言って在濱が出て行った後、職員はとうとう恋人ができたと騒ぎあっていた。
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