小説 | ナノ

青年ひとりとオス三頭 9*


 
清孝(きよたか)
芳樹(よしき)





 清孝の寝室には体格に見合った特注の大きなベッド、それと使い古したラグがある。ラグの方もやはり大きな面積を占めていて、普段獣型のときはそこに寝そべるのだ。使いこんでいる見た目ではあるが毛などは落ちておらず、敷き方もいつだって丁寧で性格の一端を表しているように見えた。
 普段はひとりでその鮮やかな青に、獅子の姿で寝る。厚みは随分なくなってきたが、柔らかさは十分でよく眠れるのだ。
 しかし今日はそうではなかった。
 愛しの番が、一緒だ。


「清孝さん、くすぐったい」


 壁へ寄りかかり、獅子の姿の清孝の舌でべろりべろりと頬を舐められている。芳樹は声を上げて笑い、立派なたてがみへ指を通してから、両手でひげの辺りをごしごしと撫でた。じっと見つめてくる清孝の、ヒトのときと変わらない真摯な眼差し。鼻先へキスをするとごろごろと嬉しそうに喉を鳴らし、はぷりと手を甘噛みする。口の中に生えそろう物騒な牙も、そっとそっと当てさえすれば柔らかな感触だ。
 晴万も咲々も寝静まって気配のない家の中。
 清孝は確認するようにくるりと見渡し、人間じみた仕草でひとつ頷く。それから芳樹の服へ鼻先を近付け、そのまま下りて、足の付け根へ。拡げられている足の間、寝間着のスウェットの上から、ぐりぐりと押した。微かに聞こえる艶めいた声。番の匂いは格別で、清孝はふんふんしながら押す。次第に膨らんできたそこ。


「きよたか、さん」


 とろんとした声に顔を上げる。
 その目は眠たげにも見えるような雰囲気で、けれど睡眠の欲にかられているわけではないことを知っている。が、今日はなんとなく、違って見える。


「なんか、あつい」


 たよりない発声、雰囲気。まさか、と清孝は思う。

 近年、ヒトであっても獣人の番とされると発情することが発見された。獣人から何かが感染するのか、何が影響するのか未だに解明されていない。そもそもヒトと獣人、獣人と獣人が何を元にして互いを番だと認識するかも、未だにわかっていないのである。

 その発情の匂いが、した。甘ったるい匂いに微かに鉄臭さが混じっているような、発情したとき独特のもの。ぺろりと口元を舐めると、先ほどとは違って身体をひくつかせる。
 何かにあやつられでもしているように、ゆらゆらと芳樹の手が動いた。それはシャツの端を掴み、ゆっくりたくしあげる。億劫そうに身体を立て、晒される肌。脱いでしまうとシャツを捨て、再び背中を壁へつけた。それから鬱陶しそうに下まで脱いでしまう。色っぽさなどない脱ぎ方だった。足首に引っ掛かっているのを、清孝が口にくわえて器用に取り去ってやる。


「ありがと」


 鼻の頭を撫でる手からも発情の匂いがした。
 身体中からそれがある。発情していなかった清孝までもつられそうな匂い。もし咲々だったら間違いなくむしゃぶりついているだろう、濃い匂いだ。


「なんか、変……えっちしたい、きよたかさん」


 このへんがあつい。
 そう言って、へその辺りへ手をやる。それなりに筋肉のついた美しい男の身体。
 大切な番の潤んだ目に、匂いに、身体に、清孝が惹かれないわけがない。


 ヒト型になった清孝の手で横たえられた身体、弄られもしていない胸の先がずいぶん健気に立ち上がっている。そこをさらさらと自分の手で撫でては内腿をひくつかせ、やがてその動きに清孝が気づいた。
 芳樹の硬くなった雄を口へ収め、人とは若干異なる長い、ざらついた舌で喜ばせながら目のみを上げる。首をそらし、心地良さそうな息を漏らしながら乳首を弄る番の姿。
 口の中のものも、硬さを増して液を尖端から溢れ出させている。途切れることのないそれと唾液とが、嚢を伝い垂れる。こんなことは初めてだ。こんな風に濡れるのを見たことはない。


「ヨシ」


 口を離し、声を掛ける。しかし反応はない。すっかり快楽に取り憑かれている。
 芳樹の身体を抱き起こして、抱きしめた。


「ん、きよたかさん、なんか、へん」


 ぎゅ、と、腰のあたりを抱きしめる細い腕。


「きもちいい、でも、こわい」
「初めてだろ」
「うん……こうやって、ぎゅってしてるだけでも、いきそ、」
「オレの体液、身体に入れりゃ落ち着くからよ。ちょっと我慢な」


 しがみつく芳樹の小ぶりな尻を撫でてから、両手の人さし指で間を撫でる。思ったとおりそこはふっくりと開いて、清孝の指をほしがるように蠢いた。


「ぁ、なに、きよたかさん」
「撫でただけだ」
「むずむずする、きゅうって」
「大丈夫。大丈夫だから、落ち着け」


 未知の感覚に怯える芳樹に声を掛け、髪にキスをしてあやす。唾液より汗より精液が一番濃い体液だ。こういう発情状態は挿入して入れてやるのが一番早い。回を重ねれば発情の感覚に慣れてくるだろうが、最初が辛い。今までの快感とは桁違いなのだから。
 芳樹を抱きしめたまま再び、仰向けにさせる。首へ回された腕、清孝が少し離れそうになっただけで力が篭った。額へ口づけて、大丈夫だ、と繰り返す。泣いてしまいそうなくらい潤んだ芳樹の瞳に、清孝の顔が映る。


「発情してるんだ。わかるか」
「はつじょう……じゅうじん、じゃ、ない」
「ああ。でもな、獣人の番になるとヒトでも獣人に似た発情期が来ることがわかったんだと」


 はふ、はふ、と息をつく。頬へ大きな手を当て、再度キスをした。


「怖くないからな。オレにぎゅってしてたら、すぐ楽になる」


 こくりと、幼く頷く。
 清孝は芳樹の膝裏を腕にかける。そして解す必要もない柔らかさのそこへ自分の反り立ったものをあてがい、一気に奥へと押し込んだ。
 密着した上半身、硬直する芳樹の身体。
 息が詰まり、腕がきつく清孝の首を引き寄せる。腹の辺りが温かい。どうやら芳樹が射精したらしい。


「……ヨシ」


 痛いほど締め付けてくるぬるぬるの中。普段と少し違う、ひだの蠢きが執拗なざらついた胎内。誘い込むようにはりつき、収縮する。


「ヨシ、大丈夫か」


 息を細く吐き、頷く。


「きよたかさん、どうしよ、すごく、いい」
「そいつぁよかった。苦しきゃやる意味がねぇ」


 緩やかに腰を振る。


「ぁっ、あ、きよたかさん、きよたかさん……っ」
「すげぇ気持ちいい」
「おれも、きもちぃ、きよたかさん」


 素早く突く必要はなかった。どろどろと熱い胎内が十分以上にきつく、芳樹の顔が気持ち良さそうだったからだ。涙を流しながらたまにキスをねだる芳樹に応えてやりながら、身悶えして淫らな声で鳴くのを見つめていた。
 優しくて明るくて大好きな番。
 まさかこんな風に乱れる日が来ようとは。しかし、この新たな一面は特に、咲々に対して有害だ。期間がどれほどあるのかは、数回の発情期が過ぎてゆっくり整いはじめる。

 発情期が来たら咲々に触らせないようにしよう。

 固く誓う清孝のものを受け入れた芳樹は、快感に翻弄されつつも幸せな気分がちょっぴりあった。今、芳樹の心の中を占める大多数は未知の感覚に対する恐れなのだが、清孝がいたら大丈夫だと思う。そうすると、恐れが少しずつ和らぐ。
 恐れが和らぐと、気持ちよさがますます強くなる。ただ身を任せればいいのだとわかる。


「きよたかさん、もっと、して」


 ねだられたら聞かない訳にはいかない。
 様子を見ながら奥深くを突いた。芳樹は少しずつ、強い快感を受け入れ始めたように思う。今度は、控えめに鳴らされる甘い声に雄がくすぐられ始めた。けれどここでそれを解放してしまえば意味がない。怖がらせてはならない。
 慎重に、慎重に。
 乱れる芳樹とは異なり、言い聞かせたり自制したり。


「きよたかさん、おく、きもちいい」
「もっとよくなる」


 締め付けて、引き込んで、奥が食むように。
 その先に何か孕むための器官でもあるかのように誘われては体液を吐く。

 どちらも、何度くらい射精したのだろうか。

 芳樹はくったり、だるそうだ。中から抜け出した清孝は獣型になり、芳樹の腹に飛んだ精液をいただく。たまに引きつる腹筋。ぺたりと舌がくっつくと、まだ残っているらしい発情がうずくようだ。


「清孝さん、ねむい」


 ぺろぺろなめ回した清孝、部屋の端へ置いておいた大判のタオルを銜えて身体へかけてやる。それだけでは当然寒いので毛布をベッドから引きずり下ろして掛け、更に身体をぴったりくっつけて伏せた。
 芳樹が、柔らかい毛のあたりに顔を埋める。まるでお気に入りの人形を抱くかのように無邪気に腕を起き、眠った。

 くるる、満足げな雄。
 自らも頭を下げ、気に入りのラグの上で番と同じ夢を見に、目を閉じる。




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