猫のきみ 6
サクラ
リオ
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とてもいい天気。太陽の光が少し強すぎるような気もしたけれど、木陰に入ってしまえば涼しい風が吹いてきて気持ちがいい。猫の姿のぼくはリオの膝に丸くなって、外の匂いに鼻をひくひくさせながら芝生やその上を走り回る人間の子どもを見ていた。リオの手が毛を撫でる。気持ちいい。
リオがこの場所にシートというものを敷いて座ってくれてよかった。もしもっと向こう側だったら、あのヒトの子どもが寄ってきてくちゃくちゃにされたに違いない。こうして少し離れている場所にいるから落ち着いていられる。
「サクラ、気持ちいいな」
「にゃあ」
「今日にして良かった。最初の予定の日はやっぱり暑すぎだったな」
本来は先週末にこの公園に来る予定だったのだけれど、リオが外を見て「今日はやめよう」と言った。その通り、午後は猛暑と呼ばれるほどに気温が上がって、ネッチュウショウという病気がよく起きたのだそうだ。それで今日、やってきた。見渡す限りの芝生、林の中を流れるきれいな川。リオがぼくを抱いて、一通り見せてくれた。川には惹かれたけれど、落ちたらどうなるかわからない。ヒト型になればいいのだけど、なったところを見られたら獣人嫌いのヒトにいじめられてしまうかもしれないから今日は一日猫の姿でいるつもり。リオの膝で撫でてもらえるから悪くない。
片手でぼくを撫でたまま、リオが傍らに置いたかばんの中から容器に入ったおいしいクッキーを取り出した。猫の姿でもヒトと同じものが食べられるぼくの大好きなおやつ。ミルク味でとっても好き。
にゃあと鳴くと、小さく割って口元に運んでくれる。ぱくぱく食べて指まで舐めると、リオが笑った。リオが笑うとぽかぽかする。クッキーのお礼に、伸びあがって頬をぺろぺろ。
「サクラは可愛いな」
目を細めて、抱きしめてくれた。すりすり頬が触れて温かい。リオのにおいはぼくを安心させてくれる。でもやっぱりこの近さで見るとそわそわ恥ずかしくなる。くっつきたい。でも恥ずかしい。リオはかっこいいから。
「サクラ、ちゅーする?」
ぼわっと毛が膨らんだのがわかった。リオは「嘘だよ」と言いながら、ぼくのせまい額へちゅっとした。ときどきこういうことをしてくるようになった。されるとぼくはいつもからだが石になったみたいにかちかちになる。
「可愛い」
膝に戻され、背中を撫でられる。ぼくはぱちくりぱちくり、目を瞬かせていた。
ヒトになりそうだった。リオが唇をくっつけてくると、どきどきが跳ねて、からだが変にむずむずして、ぼくの意思なくヒトになりそうな妙な感じ。
「サクラ、もっと食べるか」
何もなかったようにリオはクッキーを出した。こくんと頷き、また手からもらう。はぐはぐ食べるぼくを、きっとリオはとても優しい目で見つめている。それがわかるから、上を向くことができなかった。
ぼくにくれながら、リオもぽりぽり食べていたらしい。それから、瓶のお酒も少し飲んでいたようだ。シートにぱたりと寝転んで、うとうと始めたリオ。かばんからはみ出したタオルケットを口に銜えて一生懸命引っ張って、なんとかリオのからだにかけることができた。リオがかけてくれるみたいに上手にはできなかったけれど。
ぼくは懐にもぞもぞもぐりこんで、尻尾の辺りに鼻先を埋めるように丸くなる。ぽかぽかいい匂い。
にゃあと鳴くと、リオの手が頭を撫でてくれた。おやすみ、リオ。
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