小説 | ナノ

青年ひとりとオス三頭 7


 

咲々(ささ)
芳樹(よしき)





 暦の上では連休で、けれど休みにならない会社も多いらしい。
 晴万と清孝は通常通り出勤していって、家に残されたのはお休みの芳樹と高校生の咲々。ふたりきりなことが嬉しくて、咲々はどこに行くにも芳樹にべったりくっついてくる。トイレの前にまで。
 虎の姿ながら、なごなご猫のように鳴かれるとかわいくて仕方がない。トイレから出るときちんと座って待っていた咲々の頭を撫でてやった。

 咲々の課題を見てやり、一緒に簡単な昼ご飯を作って、食べて、片づけをして、現在は庭に面した縁側で虎姿の咲々にブラッシング。もふもふと柔らかな毛を梳いてやると気持ちよさそうにごろごろ、のどを鳴らした。虎も鳴らすのか、それとも獣人の虎だけなのか、と思いつつ、床に伏せて耳までぺったり寝かせている咲々を愛しげに見る。


「咲々、気持ちいい?」


 尋ねると鳴いて、おそらく肯定の意思を表した。
 背中を終えるとごろんと腹を見せた。背中は黄色っぽく黒い模様がくっきりしているのに腹のほうは真っ白。そういえば足も、靴下を履いたように途中から白くなっている。なるほど咲々の模様はこんな風になっていたのかとまじまじ見ていたら、なうなうと声が聞こえた。早くやってくれと丸い目が催促してくる。


「こうやってじっくり見る機会って意外と無いから気になっちゃった」


 ごめん、と腹を撫で、ブラシを通す。

 ぽかぽかと日光が降り注ぐ秋の庭。風が少々冷たいこと以外は天国のように心地いい。お腹はいっぱいだし大好きな芳樹によしよしされて毛並みを整えてもらって気持ちいいしで、咲々はいつの間にかうとうと、眠ってしまった。

 が、その眠りから起こされたのは突然。
 芳樹が、急に毛に隠れた乳首を押したから。頭をもたげると、芳樹がにっこり笑う。


「おっぱい探し!」


 無邪気な様子で、ここにもある、あ、ここにも、と、毛をかき分けて探す。咲々は驚いたように目を真ん丸にして、けれどなすがまま、芳樹に乳首をぐりぐりされるたびに耳を動かし尻尾をびーんとさせるばかり。
 ヒトでいるときほど性的な感覚があるわけではないが、普段触られたり意識しない場所をこんなにぐりぐりやられると落ち着いてはいられない。


「やっぱりたくさんあるんだな」


 一通り見て満足そうな芳樹の顔はかわいかった。我慢したかいがあるというものだ。
 びっくりしたのはすっかり忘れて身を起こした咲々、ブラッシングのお礼も兼ねて頬をべろべろと舐める。しなやかな舌は獣人ならではの柔らかさで、あの猫のようにざらざらした感触はない。
 芳樹の後ろでヒトの姿に変わった咲々。
 肩につきそうな長さのさらさらした黒髪、涼しげな二重の目、つんととがった鼻、赤い唇。どう見ても整っている。しなやかな腕で芳樹を抱き寄せると、髪や肩に口づけ。首にも吸い付いて赤い痕を残す。


「芳樹、ありがと。すっごく気持ちよかった」
「それはよかった」


 ちゅっちゅと首にキスをしてときおりあむあむと噛んで、芳樹がくすぐったそうに身をよじるも逃がさないでスキンシップを続ける。それが耳に及ぶと、明らかに芳樹の匂いが強くなった。甘ったるい、お菓子のような番の匂い。獣人を酔わせる世界で一つだけの匂いだ。


「芳樹、耳、好き?」


 はぐはぐ噛みつくと、だめ、と言われる。


「まだ昼間だからな。だめだ」
「……夜ならいいの」
「うん」


 しょんぼりしながら、不満をぶつけるように首に戻ってちゅうちゅう吸う。さきほどよりしっかりとした赤い痕を増やした。
 もし芳樹の静止を振り切って交尾に及べば嫌われるし、清孝にも何をされるかわからない。咲々の黒髪が流れる首にはいくつもの傷痕。端正な顔からは想像もつかないような壮絶な痕はどれも清孝に噛みつかれて負ったものだ。芳樹や晴万が止めてくれなかったら確実に命を落としていた。
 特に芳樹がいなかったら。番がそばにいるということはそれだけで生命力が増す。

 清孝のしつけ(?)のおかげで、咲々はずいぶん自分の欲を抑えることを覚えた。
 芳樹は微笑んで、不満そうながらおとなしくしているオスの、腰に回された腕を撫でた。


「我慢できるようになって偉いな、咲々」


 しょっちゅう癇癪を起したり、嫉妬をして暴走したり。そんなことが多くあったのにいつの間にか数を減らしている。顔だちもずいぶん大人っぽくなり、かわいいというよりかっこよくなってきた。


「大人になってるんだなぁ」
「ちゃんと芳樹を守れるようにね」
「危ないことも、まあ、特にないけど」


 でも、嬉しい。

 褒められた咲々は優しい番に甘えつつ、へっくしょとくしゃみ。獣から戻れば服はない。全裸だから、風が寒い。あっと芳樹が言って立ち上がり、いそいそと居間に脱ぎ散らかしてあった服を持ってきてくれた。


「ありがと……」
「咲々、鼻水出そう。はいティッシュ」
「ありがと……」


 服を着て鼻をかむ。風邪ひいちゃったかな、と言いながら芳樹は一応薬を用意した。清孝が仕入れてくる獣人専用の薬。ヒト用は効きが悪いのである。


「やだ、まずいこれ」
「やだじゃないー。飲みなさい」
「やだ」
「あ、こら!」


 だっと逃げ出した咲々を追いかける芳樹。
 まだまだ子どもか、と笑って、捕まえたかわいいオスの首筋に、言うことをきくように口づけた。


「もっとしてほしかったら薬を飲みなさい」
「飲む」


 やっぱり子どもだ。





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