青年ひとりとオス三頭 4*
芳樹(よしき)
清孝(きよたか)
清孝の発情期のお話です注意です。
*
家に帰ったら玄関で待ち構えていた清孝さんに抱き上げられて部屋に運ばれた。靴も脱いでいないのに、大きなベッドに放り投げられる。身体を起こす前に大きな身体でのしかかってきて、自分のシャツを脱ぎ捨てた。筋骨隆々、という言葉が良く似合う、厚くてたくましい身体が目の前に現れる。
肌に触れて、噛み付くようなキスを受けながら特殊な香りに気付いた。甘ったるいようなちょっと鉄臭いような、不思議な匂い。普通の人のものよりも長くてざらついた舌で口の中、喉までも舐め上げられて気持ち悪くなったり呼吸困難になってぼやける頭の片隅に、発情期、という言葉が浮かんだ。
この匂いは、獣人が発情したときの匂いだ。
「きよたか、さ」
「黙ってろ」
余裕のないオスの顔。いつもの悠々とした笑みはそこになく、再び口を塞いできた。そして、シャツが破ける音を聞いた。ああ、結構気に入っていたのに。
しかし発情した清孝さんには何を言っても無駄なのだということはすでに学習済み。咲々や晴万もそうだ。こうなってしまえば人語を上手に解さない。下っ腹に溜まる熱は焦燥感や飢餓感にも似た感情を齎し、早く番を食ってしまえと急かすように手を動かさせるのだそうだ。
軽々と俺の身体をひっくり返し、ズボンを抜き去る。もはやいつベルトを弄られたのかもわからなかった。あっという間に裸にされ、柔らかなベッドの上であんあん喘ぐ羽目になった。嫌いではないけれど、こうして余裕のない相手にあれこれされるのはあまり好きではない。何も話してくれないし、気遣ってもくれない。ひたすら自分の熱を放射し、番の体液を取り込むことで落ち着きたいだけなのだ。それだけを求めている。
仕方なく、清孝さんの匂いでいっぱいの大きなまくらにすがりついてうつぶせの腰だけを高く上げた体勢で、ヒトのものとは少々異なる獅子の獣人の熱を受け入れた。厚みのある腰が打ち付けられ、ふんばっても身体全体が揺れる。自分の子種を奥に奥に入れようとする突き方。
明日は腰がぎしぎしだろうな、などとなんとなく思った。
獣の呼吸が頭上から聞こえる。覆いかぶさってきた清孝さんは、俺の背中に爪をたてた。鋭い痛みが走る。繋ぎとめるように、食い込む感触。本能というやつ、なのだそうだ。
「きよたかさん、いたい」
声は届かない。
普通のセックスは好きだけれど、発情期のセックスは嫌いだ。まるで俺のことなど認識しないから。悲しいような苦しいような、涙がぽろりとこぼれた。
どの程度揺さぶられていたのだろう。
気付くと、意識を飛ばしていたのか何なのかさっぱり記憶になかった。しかし腰はじんじん疲労に覆われ感覚はなく、身体全体が鉛のように重い。体勢は対面座位に変わっていて、抱きしめていたはずのまくらは清孝さんの太い首に変わっていた。たくましい胸に力なく擦りついてみる。すると、頭を優しく撫でる手があった。
「……悪い」
顔を上げると、ばつの悪そうな顔をした、いつもの清孝さんがいた。
一通り出すものを出して、摂取するものを摂取してすっきりしたのだろう。獣人の発情期などそんなもの。そして、この疲労感は体液をしこたま奪われた証拠。射精した記憶もないのに。俺は気を失っている間にも散々嘗め回されていたに違いない。
気遣ってくれる手に甘やかされ、疲れたし怖かったけれど良しとした。道具のように使われた後は、優しい労わりが待っている。
「清孝さん」
「ん?」
「キスして」
優しいやつ
またまた困ったような顔をして、触れるだけの口付けをそっと。二度、三度と様子見が続いて、それからゆっくり口の中に舌が入り込んできた。
やっぱりこういう清孝さんのキスがいいな。セックスも、意識がある状態で優しくしてもらえるのが好き。けれどそんなことを言ったら清孝さんは我慢して他所で発散しようとするから、言わない。
乱暴でも、怖くても、疲れても、清孝さんの番は俺だから。
「……まだ硬い」
体内に収まっている清孝さんのは硬度を保ったまま。申し訳ない、と言う清孝さんの目を覗き込む。
「優しくしてくれるなら、いいよ」
そう言うと、頬を少しだけ赤くした。
「ヨシ」
「清孝さんが優しくしてくれるセックスは好き」
骨がきしむほど強く抱きしめられ、緩やかに身体の奥を突かれる。漣のような快感がじわじわ、重い腰の奥から滲み出る。
「痛くねぇか」
「うん……きもちいい」
息を吐いて、胸に頬を寄せて、手を繋いで、言葉を交わして。
こういうのが好きだ。
「ごめんな、ヨシ」
髪に口付けられて、ますます胸がきゅんとする。
「清孝さん、もっと、きもちよくして」
緩やかにゆるやかに与えられる快感に心地よく呑まれたい。
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