小説 | ナノ

白い男 3


 
ラシェッド
バスマ
ハイズン





 バスマに自室はいるか、と聞いたら、ラシェッドと一緒がいい、と言ったので書斎にずいぶん色が増えた。バスマのために言葉のカードやボード、遊び道具などを買ったからだ。低年齢向けのものだが、ことばがたどたどしいバスマにはちょうどいい。他にも敷物を鮮やかなものにしたり、ソファを置いたり、背が低い本棚を増やしたり。ハイズンに言われて各国の本を揃えた。
 窓には、以前より遮断性の高い紫外線防止フィルムを貼りなおした。バスマが部屋で過ごすことが多い以上、対策は取っておかねばならない。


「バスマ、うまいか」
「うんっ」


 小さな赤い小魚の縫い取りがあるお気に入りの青いクッションに寄りかかり、バスマがにこにこしながら食べているのは押し麦にドライフルーツやナッツ、ドライシードなどを混ぜて固めのヨーグルトとあえ、一晩冷やしたもの。最近の暑さですっかりバテ気味だったバスマ。食事もしたくないと言うのでいろいろ試して一番気に入ったものがこれだった。深いスプーンをしっかり握って嬉しそうに食べている。

 共に敷物の上に座り、それを眺める。今日から一週間、国中が休みだ。特に何かの祭日というわけでもなく、この時期は高温が続くこの国ならではの休み。ハイズンはまだ寝ている。暑いときは寝るに限る、とは、北方出身の彼の言葉。


「ラシェッドも」


 差し出してくれたので、口に入れた。冷たいヨーグルトに、甘いドライフルーツやシード、麦の様々な食感がある。俺も嫌いではない。ふたりでもぐもぐ。食べ終えると、食器を持ってバスマが立ち上がる。


「お片づけ」
「ああ。転ばないようにな」
「はい」


 軽い足取りで部屋を出て行く。廊下にいた使用人が困ったような顔をしたが、好きなようにさせてやれ、と短く伝えた。あの様子ではキッチンで食器を洗って戻ってくるだろう。
 ではその間に済ませるか。
 椅子に座って机に向かい、デスクトップパソコンで株価のチェックをしたり、取引先からのメールに目を通したり。休みなのはこの国だけで、他は通常だ。一週間も返事を待たせるわけにもいかないので返事をした。ちょうど終るころにバスマが帰ってきて、膝に座った。


「しごと?」
「ああ。もう終った」


 電源を落とし、背もたれへゆったりと寄りかかると、大きな椅子の上で俺の太股をまたいで首に腕を回し、抱きついてくる。キッチンで茶でも貰ったのか花のような香りがした。肩へ頭を載せ、満足そうに息を吐く。細い腰を抱いて俺も華奢な肩へ顔を寄せる。


「いい匂いがする」
「お風呂の新しいせっけん。好き?」
「ああ」


 襟から覗く首筋を嗅ぎ、唇で触れる。するとくすぐったそうに笑う声がして、戯れのそれを繰り返す。全く性の香りがしない。ただの遊びの延長で、バスマは俺に触れられることが単純に嬉しいだけのようだった。
 バスマの笑顔は、見ていると安心する。何も混ざっていない、ただ楽しい、ただ嬉しい、そんなプラスの感情だけでできているような気がするからだ。


「なにやってんだお前ら」


 片手にりんごを持ったハイズンがやってくるまで、バスマを撫でたりバスマに撫でられたり、そんなことをし合っていた。いかにも休みらしい、のんびりした時間。


「ハイズン、一緒に遊ぼ」
「何して?」
「わんとおにごっこ!」
「わんは駄目だ!」


 わん、は、バスマが見つけて一緒に暮らし始めた黒い犬だ。相変わらずハイズンは犬が苦手なようで、近寄りたがらない。膝から下りたバスマは「わんー」と言いつつばたばた走っていった。それを絶望的な表情で見送るハイズン。


「あああ犬は嫌だって言ってんのに」
「がんばれよ」
「……なんでお前は誘われねぇんだよ」
「さぁな。遊ぶのはハイズンの役目だと思ってるんじゃないか」
「さっき何してたんだ」
「スキンシップの一環だ」
「ふぅん」


 あっそ、と言って、廊下を見ると焦ったような顔になる。手に持っていたりんごをドアの脇に置いてどこかへ行ってしまった。それからすぐ部屋の前を通過して行った黒い子犬。そのあとすぐにバスマ。

 ひとしきり遊んだら、昼ご飯を食べて昼寝。それから勉強をして、風呂に入って。
 ゆっくりした、いい休みになりそうだ。





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