小説 | ナノ

麗華さんの幸せな日々 3


「麗華はお仕事に行ってきますからね。すぐ戻りますから」
「いっちゃいや」
「困りましたねぇ。桃ちゃんの好きなきなこ大福を買って帰りますから、許してもらえませんか」
「すぐ帰ってくる? れーか、ほんと?」
「本当ですよ。行ってきますね、桃ちゃん」


 ちゅっと額にキスをして、お部屋に鍵をかけて出て行ったれーか。もう悲しくて、しんとしたお家が嫌で涙がでる。


「れーか、やっぱりいかないで」


 わんわん泣いてももう遅い。れーかは出て行ってしまったあとなのだから。れーか、れーか。お気に入りのぬいぐるみに抱きついてしくしく泣く。れーかはほんとにはやく帰ってくるのかな? そればかりが気になった。読んでいた本の続きも、観ていたアニメのDVDの続きもとたんに気にならなくなる。れーかがはやく帰ってきてくれなきゃ嫌だ。
 しくしく、泣きながらベッドへ潜り込む。ふかふかのそこにはれーかの匂いのするタオルケットがあって、それで少しは慰められた。少しだけ。ぬいぐるみとタオルケットを抱きしめて泣いているうちに眠ってしまったらしい。
 目を覚ましてもそこは青空。れーかが貼ってくれた壁紙とブラインド。何時くらいなんだろう、時計がないからわからない。日が落ちたられーかは帰ってくるのかな。ううん、それじゃ遅すぎる。すぐ帰って来る、って、言った。

 親指を咥えてうとうと、泣いたり寝たりを繰り返していたらがちゃりと音がした。


「れーか!」
「帰ってきましたよ。ただいま桃ちゃん。いい子で待っていてくれたみたいですね」


 荒れていない部屋を見回してふんわり笑う優しいれーか。抱きつくといい匂いがした。


「石焼き芋を買ってきました。はんぶんこして食べましょうね」
「おいも、好き」
「そうですか、それはよかった」


 れーかのお膝に乗ってふぅふぅ冷ましてもらって食べる黄色いお芋はとっても甘くて美味しかった。


「今日は桃ちゃんがいい子にしていたから豪華な夕飯にしましょうね。お肉を焼いて、お魚を煮て」
「れーかがいればいいもん」


 ぎゅっと抱きつくと背中をさすってくれた。れーかはふんわりといい匂いがする。お花みたいないい匂いだ。桃も同じ匂いがするのかな。するんだったら嬉しいな。れーかと一緒。

 料理をするれーかをたまに見ながらアニメのDVDを見ていた。香ってくるいい香り。お腹が鳴る。


「れーか、お腹すいたー」
「はいはい、もう少しでできますからね」


 親指を吸いながられーかの背中を見つめる。飛ぶようにキッチンを行き来して料理をするれーかはなんだか楽しそうだ。


「れーか、楽しい?」
「楽しいですよ。桃ちゃんのためにお料理ができるわけですから」
「ふーんっ」
「もう少し待ってくださいね」


 ふわふわといい匂い。お肉とお魚、楽しみだ。お土産のきなこ大福も。


 一緒にお風呂に入って髪を乾かしてもらって、ぎゅっと抱っこされたまま目を閉じる。眠る直前に恐怖が襲ってきてみぃ、と泣いてしまった。れーかが目を覚まして強く抱きしめてくれる。それでやっと安心して桃はすやすや眠った。


「おやすみなさい桃ちゃん。いい夢を見てくださいね」
「うん……れーかも、みてね」
「桃ちゃんがそう言ってくれたらとってもいい夢が見られそうです」







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