笑う聖職者
昼下がり。
アレンが血相を変えて自分の部屋へ逃げていった。
その時、気付くべきだったんだ――
「久しぶりだなルフィア」
「……珍しいですね、師匠」
じりっ
獲物を補足した真っ黒い笑顔の師匠から、一瞬たりとも目をそらさないようにして。
ゆっくりと、非難経路確保のために後ずさる私。
「教団は嫌いなんじゃなかったですか」
「お前に会いたくなってな」
ずいっ
せっかく確保しかけた非難経路が、師匠の大きな一歩によって奪われた。
気が付けば、さっきまで普通に人が歩いていたはずの廊下には、私たち二人の姿だけ。
とんでもない人除けだ、師匠は。
……ていうか、みんなも逃げずに助けてよ。私が不利なの分かり切ってるじゃないか。
「とりあえず、お前の部屋に行くか」
いつの間にか、師匠の腕は私の腰に回り。
あっと思った時には、軽々と担ぎ上げられていた。
「下ろしてください!」
「ベッドについたらな」
「師匠の誘拐犯!鬼畜!変態!マッドサイエンティスト!」
「はっはっは」
至極楽しそうに笑う師匠に拐かされ、あっという間に自室に連れて行かれた。
時たま師匠がふらりと現れると、毎回こういうことになる。
アレンはいつも危険を察知して脱兎の如く逃げていくけど、未だに私には、アレンのような便利なレーダーはついていないみたいだ。
自室のベッドの上に放り投げられ、逃げる間もなく覆い被さられる。
さらりと頬をかすめる師匠の髪がくすぐったい。
「俺の居ねぇ間浮気なんぞしてなかったか?ルフィア」
「師匠に言われたくないです。ていうかしてません。……って!どこ触ってんですか!」
ちょっと油断した隙に、師匠の手は既にスカートの中。
人の顔見るとすぐにベッドへかっ攫う師匠は、さすがにこういうときの手も早い。
「ほう、偉いじゃねーかルフィア。これは褒美をやらんとな」
「全っ然ご褒美になってないです!本当にやめ……んっ」
制止の言葉は師匠の唇に飲み込まれた。
ねっとりと舌を絡めとらる濃厚なキス。
これにいつも、勝てないんだ。
「溜まってただろ?今夜は寝かせてやらんから安心しろ」
「……本当に人の話、聞かないですよね師匠……」
有言実行とはよく言ったもので、この日私は本当に一睡もさせてもらえなかった。
fin