スリーピング・ビューティ


「おはよぉティッキー。ねー宿題手伝ってぇ」

「朝っぱらから何だよロード。オレよりルフィアにやってもらえばいいだろ」

「だってー。ルフィアまだ起きてこないんだもん」

「マジで?」


朝からロードに捕まったオレ。
部屋の中をひょいっと見渡して、なるほど、ルフィアの姿が無いことに気づく。


「起こしてきてやればー?このままほっとくと、絶対明日まで寝てるぜアイツ」

「ヒヒッ、夜が明けちまう!」


ジャスデビたちに急かされて、俺は少しだけ肩をすくめた。


「ちゃんと起きてくれりゃいいんだけどな、あのお姫様は……」



コンコンッ

ルフィアの部屋のアンティーク調の扉を、いつも通りノックする。


「ルフィアー?」


…いつも通り、返事はない。


「入っちまうぜ?」


不用心にも鍵のかかっていない扉を、そっと押し開ける。
あーあ。これじゃ、ジャスデビたちに襲われても文句言えねぇじゃん。


「ルフィア?」


部屋に入ってすぐに鼻をくすぐる、ルフィアの香り。
ずいぶん前からルフィアが使ってる、花の香水の香りだ。
天蓋の掛かった大きなベッドには、案の定ぐっすりと眠りこける、オレの眠り姫。


「おーいルフィア?もうとっくに朝は過ぎてるぜ?」

「…………」


ベッドまで歩みよって声をかけてみるが、オレのお姫様はそんなことじゃ簡単には起きない。
ルフィアが爆睡してるときは、多分直下型地震がきても寝てんじゃねーのとか最近思う。


「ルフィアー。頼むから起きてくんない?
じゃないとオレ、ロードの宿題やるので1日終わっちまうよ。
可愛いルフィアの相手出来なくなっちまうだろ?」

「……んー……あとさんじゅっぷん……」

「いや、ふつーに寝すぎだからそれ」


オレの反対側に寝返りをうち、更に羽布団に潜り込みながら、ろれつの危うい舌で答えるルフィア。
ねぼすけな上に、お前は天然なお姫様。
そこが可愛いくて、危うく負けそうにる。

オレって奴は……


「いいのかー?ほっとくとオレ、ベッドの中一緒に入るかもよ?」

「んー……」

「後ろから抱きしめてキスしちまうぜ?」

「んー……」

「もうそのまま勢いで襲っちまうかも」

「…………んー……」

「ってこらルフィア!寝るなって!」


ったくこいつは。
無防備にもほどがあるというか何というか。
来たのがオレじゃなくて、ジャスデビたちとかだったらどうするつもりなんだよ。
確実に襲うぞ。あいつらならな。
……かく言うオレも、保証は出来ないけど。


「ルフィア。何にも言わねーんならこっちもそれなりにやるからな」

「……ん…」


またも生返事のルフィアに小さくため息をついて、
有言実行、ベッドの中に侵入する。
背中を向けたままのルフィアは、再度眠りに落ち掛けているようで、特に反応なし。
寂しいねぇ。


「ルフィア……」


後ろから腕を伸ばして、華奢なルフィアの体を抱き寄せる。
少しだけ意識が浮上したのか、小さな肩がびくりと震えた。


「ん……ティキ……」


だめだよ…と小さくつぶやきながら、ルフィアはゆっくりと体を反転させた。
まだ眠り足りないと言わんばかりの、寝ぼけた瞳と目が合う。


「おはよ、ルフィア」

「まーだぁ……」

「いい加減起きろって。じゃないと本当に襲うぞー?」

「……それもやーだ」


そう言いながら、##NAME1##はオレの胸の中にすり寄ってくる。

どっちなんだよ。
思わず唇に笑いがこぼれる。


「ルフィア?それじゃ誘ってるようにしか取れねーんだけど?」

「ちがうよ……このままね……寝る、の……」


ふわふわとしたルフィアの声が
更にふわふわと頼りなく、オレの胸の中に消えていく。
やばい。
また寝に入るつもりだ。


「ルフィア〜、寝るなって」


蜂蜜色の前髪を書き上げて額にキスして、
耳の裏を指先で撫でてやると、ルフィアはくすぐったそうにふふっと笑って身をよじった。

更に、まだ閉じられたままの両瞼にも順に口付けて、
最後にルフィアの柔らかな唇へ。


「んっ……」


オレのキスを受け止めたお姫様は、やっとその眠そうな瞳を、睫の間から覗かせた。


「まだ眠いのに……」

「だーめ。もう起きてオレの相手してくれよ」


じゃないとホント、オレ保たないよ?
可愛い眠り姫は、オレの本音までも意図せずに引き出してしまう。
ある意味じゃ、ノアの一族最強かもな。


「ん……本当に起きなきゃだめなの?」

「そういうこと」


ちょっと寂しそうに首を傾げるルフィアが、無性に可愛くていられない。
どんなにポーカーフェイス気取ってみたところで、無邪気なこいつの前ではとうてい無力なんだと知ったのは
もう、随分と昔のことだったように思う。


「んじゃあね……もっかいキスして?そしたら起きる」

ニコッとルフィアが浮かべる、満面の笑み。
一瞬それが天使か何かに見えちまったオレは……
かなり重傷かねぇ?


「一回でいいのか?お望みなら好きなだけしてやるぜ、お姫様?」


とか言いつつ、本当はオレがルフィアに触れたいだけ。


「それってティキにとって好きなだけって意味でしょ?だめー。そんなんじゃ絶対、明日の朝まで離してくれないもん」


ほらな。こいつはよく分かってるよ。
オレのこういう策略。


「惜しいね。明日の朝までじゃなくて……最短でも三日だな」

「それじゃもっとやだ」


嘘。
本当は三日だって足りない。
時間が許す限り、ルフィアを離したくないってのがオレの本音。
でもそれを言ったら、かえってルフィアに逃げられそうだな。


「分かったよ。じゃあ一回な?」

「うん」


早速目を閉じて、んーと唇を突き出す姿は、そりゃあもう、文句なしに可愛いくて。
優しく唇を重ねてやると、ルフィアは少しだけ眉を寄せてそれを受け入れた。


「んっ……」


唇を合わせるだけの甘いキス。
目覚めたばかりのルフィアは、激しいやつよりこっちの方が好きだからな。
しばらくしてそっと唇を離す。
名残惜しさに少しだけついばんで。


「ティキ、なんかやらしー」

「そ?俺はいつも紳士だろ。それとも何?ルフィアはやらしーことして欲しいんだ?」

「違うもん。ティキのばか」


でも好き、とすり寄ってくるルフィアをそっと抱きしめて。


「知ってるぜ?俺もルフィアのこと好きだもん」

「……ばか」

「さて、そろそろ起きてくれるか?」

「いーよ。キスしてくれたし」

「もっとしてやるぜ?」

「いい!」


もうすぐ朝は終わって、太陽は空高くに上る。

こんな朝もいいかもな。
腕の中にルフィアがいて、部屋中がルフィアの香り。ルフィアの物。
これ以上ないシチュエーション。

世界は素知らぬ顔で回っているけど
たまにはこういう日も悪くない。


fin

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