哀絶したグランギニョル




その男の笑顔はいつも、他人を嘲笑っているかのよう。
残酷で、優しくて、冷たい。


「ナニ考えてるの」


ニヤリ、と。
私を見下ろす漆黒の瞳。
それに秘められた感情を正確に読みとれたことはあまりない。
だけどきっと、いまは楽しんでる。
悪戯を思いついた子供みたいに。


「……別に」


素っ気なく返して顔を背けた。
その目を見ていたくない、だけ。


「つれないね」


囁きは、すぐ耳元で聞こえた。


「ッ……止めて」


払いのけようとした手を掴まれて、ぐいと引き寄せられる。
握られたままの手首が、嫌に痛かった。


「どうしてご機嫌ナナメなのかな。体でも疼く?」


ぴちゃ

故意に官能を刺激してくる声とともに、耳朶を舌で舐る水音が鼓膜を打つ。
胸に湧き上がってくるのは、嫌悪よりも正直な恍惚とした感覚。
それが心地よくて、それ故に苦しい。


「博士……止めて」

「んーどうしようか」


背後から絡め取られた身体。
男の顔は見えない。
けれどきっと、口角をつり上げていつもの笑みを浮かべている。
指先でゆっくりと頬をなぞりながら彼は言った。


「本当はキミの方が最後までシて欲しいんじゃない?蘭花ちゃん」


そのまま、指先は私の唇へ。
まるでキスをしているかのように、丁寧に輪郭をなぞられる。
そんな刺激にさえも、ぴくりと反応してしまう。


「そういう身体にしてあげたんだもんね、ボクが」

「やっ……」


言うが早いか、それまで唇を辿っていた指は私の顎をつかみ、強引に顔を向けさせて背後から唇を重ねられていた。
ねっとりと深く、執拗に。
角度を変えて何度も舌を絡め取られて、確実に私は快楽の淵へと追いやられていく。
それはどこまでも深く蠱惑的な闇。
堕ちてしまったら最後。もう光の中へは戻れない。
この男の瞳と同じ色をした誘惑。
それだけで、私を誘い込むには充分すぎる。


「……ニィ博士……」

「なあに」


嗚呼

その笑顔が

私を狂わせる


「いっそ……殺して……」

「だーめ」


キミみたいに可愛い玩具(オモチャ)、そう簡単に捨ててあげないよ?


そう言って男は、再び冷たい口付けを


fin
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