さよならに気付かない振りをした




夕暮れ。

橙に染まった遠くの空に、沈みかけた真っ赤な太陽がひとつ、


「綺麗ですね」

「そうだな」

「真っ赤で、熱くて、近いのか遠いのか、分からなくて」

「…………」

「なんだか自来也さまみたい」

「……モミジ、」


私を見つめる自来也さまは困ったように笑った。
いつもは白銀にきらめく髪に、真っ赤な夕陽が反射してまぶしいくらい。
そっと手を伸ばして、太陽を映すその髪に触れる。


「あたたかい」


確かに、そこにある温度。
さらさらと指の間を流れる髪は、きっと私のそれよりも艶やかで


「モミジ」


嫌に低い声で名前を呼ばれたと思ったら、腕を引かれて、自来也さまにかき抱かれていた。
強く、強く。
息が出来ないくらいに、自来也さまの胸に押し付けられる。


「苦しい、よ」

「モミジ……」

「自来也さま、」


それでも離してはくれない自来也さまの背に、私も腕を回して。
指先の色が白く変わるくらいきつく、自来也さまの着物を握った。


「夕焼けだから……明日は、晴れです」

「…………」

「雨隠れの里は……それでも雨ですね、きっと」

「……違いねえのォ」

「てるてる坊主でも作りますか?」

「おお頼む。とびきりデカいやつをな」


くつくつ、と。
私の顔を見て、やっと自来也さまが楽しそうに笑った。
やっぱりあなたは、笑顔が似合うひと。
そう言ったら、自来也さまは一瞬目を見開いて、


「お前の笑顔にはかなわん、モミジ」


少年のような、泣き笑いのような笑顔を浮かべた。


「……モミジ」

「はい」

「愛してるぞ」

「知ってますよ」

「だからな……幸せになれ」

「……もちろん、なります。自来也さまの隣でね」

「…………」


一瞬の静寂。
とても、痛い、沈黙。
喉の奥に絡む、涙。


「……帰って、きてください」

「…………、」

「好きです。私も、あなたを愛しています。……だから、自来也さま。必ず」

「……モミジ」


絡み合った視線に吸い込まれるように、どちらともなくキスをする。
いつもよりもほんの少しだけ長く。


ああ、胸が張り裂けてしまいそうで

だから、さよならに気付かない振りをした。

それが最後のキスだとさえも



fin
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