緩やかな熱情を抱いて




大蛇丸様の手のひらは、いつだって冷たい。
実験結果の書類に目を通したまま、隣にいる私にかまってくれる気配のない大蛇丸様の手を取って、私の手のひらを重ねて見る。

私なんかよりずっと大きな手。
でも、男の人のものとは思えないくらい真っ白くて、細くて長い指。
黒を塗った爪。最近は、私に塗らせてくれるようになった。
何度転生を重ねたって、文句無く大蛇丸様の手。
この手に撫でてもらうことが、とても好き。

でも、いつだってそれはひんやりとした氷のような鋭さを孕んでいて。

やわやわと手のひらを揉んだり、指と指とを絡めたりしていると、ようやく書類から視線を離した大蛇丸様が、面白そうな顔で私を見ていた。


「どうしたの、モミジ。そんなに退屈なら地下牢の奴等何人か殺っていいわよ」

「ううん。違うの。あー……確かに退屈、だったけどね?……ただね、大蛇丸様の手が、温まったらいいなーって思ってただけ。」

「へえ……?」


ますます面白そうに唇をつり上げて、大蛇丸様は笑う。
鋭くて、とても綺麗な笑み。
それは、私をひどくどきりとさせる笑みでもあって。


「それで、温まったと思う?」

「んー、正直、あんまり?大蛇丸様、冷え性?」

「さあ。……でも、そうねえ…」


そんなに冷たいかしらね、なんて首を傾げる仕草があんまり可愛らしいものだから、思わず大蛇丸様の手のひらをぎゅっと握りしめてしまった。


「痛いじゃない、モミジ」

「あ、ごめんなさい……ね。私の手の温度、伝わってる?」

「ええ。それこそ痛いくらいだわ」


モミジは子供体温だものねえ……
そう言って、大蛇丸様は私に弄られていない方の手のひらで私の頬を撫でてくれた。
優しくて、気持ちがいい。
でもほら。こっちの手もすごく冷たいよ、大蛇丸様。
それは、身体が熱を持って弱っている時に撫でられると、とても安心する温度であり。
それは、誰かの血を流した時に触れられると、胸の奥がきりりと痛む温度でもあって。


「ねえねえ大蛇丸様。手が冷たい人って、反対に心は温かいんだって。小さい頃里で聞いたんだけどね」

「あら……じゃあそれは迷信だったのかしらねえ?」

「そうかもねーって、いひゃいごめんなひゃい」


自分で言ったくせに、思いっきり頬をつねられてしまった。大蛇丸様ってば、容赦ない。


「ほっぺたひりひりする……」

「あら、ごめんなさい?」


そう言って今度は私の頬をその長い舌でぺろり。
ああ、なんかもう、


「反則だ……」


なんだかどうしようもなく愛しくなって、大蛇丸様にぎゅっと抱きつく。

今日はよく絡みたがる日ねえ?
なんて言って小さく口元を緩める大蛇丸様が、この上もなく、


「好きだなあ」

「光栄だわ」


後頭部を抱えるように回された腕は、やはりとても冷たかったけれど。
どちらともなく重ねた唇は、ひどく熱を持っているように思えた。


「ん……ねえ、大蛇丸様。今夜、一緒に寝てもいい?」

「あら……モミジ、めずらしく積極的なのね?」

「もう!違うの。そういう意味じゃなくって」


これからどんどん寒くなるでしょ?
だから私が、大蛇丸様のカイロみたくなって、大蛇丸様のこと少しでもあっためられたらいいなーって、思ったの。


「まったく……可愛い事を言うようになったじゃない」


触れる指先の温度は、絶対零度に近くても。
私には、何よりも温かく思えるんだよ。


冬になって、雪が降って。
夜になって、血が舞って。


たとえ心の奥底まで凍てついてしまっても、私だけが、大蛇丸様の心を溶かす事の出来る、存在でありますように。


fin
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