So sweet




「ふあーっ、いいお風呂だった!」


濡れ髪をタオルでガシガシと拭いながら俺の部屋に入ってきた奈紅瑠は、一直線に冷蔵庫に向かっていった。
取り出したのは、俺の見覚えのないピンクの紙パック。
それをむんずと掴んだ奈紅瑠は、片手を腰に当てて一気に煽る。


「ぷはー、やっぱこのために生きてんなー!ねっ、阿伏兎っ」

「ねっ、じゃねえよこのすっとこどっこい。人の冷蔵庫に何勝手に入れてんだ」

「え、イチゴ牛乳だけど」

「……餓鬼なんだかオヤジ臭えんだかわかんねえなお前は」


書きかけの書類から顔を上げてそう言ったら、奈紅瑠は頬を膨らませてぷいとそっぽを向いた。
あー、マジ喰っちまいてえなこいつ。


「オヤジじゃないもん!実際オヤジの阿伏兎に言われたくないし」

「そうかよ」


まァ、こんな可愛いオヤジが居られても困るけどな。


「しかし、風呂上がりによくそんな甘ったるいモン飲めるな」

「銀さんに教えてもらったんだ〜。お風呂上がりにはコーヒー牛乳よりイチゴ牛乳が通なんだって!」


えへへ、と満面の笑みを浮かべる奈紅瑠。
例の吉原ん時の侍か。いつの間に仲良くなりやがったんだチクショー。


「あぶとー?」


急に黙った俺に何を思ったのか、奈紅瑠はイチゴ牛乳を持ったまま、てててっと駆け寄ってきた。


「阿伏兎も飲みたかったんならそう言えばいいのに〜」


はい、と紙パックを差し出す奈紅瑠。
あー……
マジ何なんだこの可愛い生き物。
オジさん年甲斐もなく盛りそうだわ。書類全部放り出して今すぐ喰っちまいてえんだけど。
いやいや待て。この書類明日提出だし。しかも大概が団長のやらかした何かしらの始末書だしよォ。今夜中に片付けねえとマジやべえんだよなオジさん。


「阿伏兎?飲まないの?」


飲まないの?じゃねえよむしろ食いたいんだよオジさんは。
頼むからそんな可愛く首を傾げてくれるな。ちょっと上目遣いになっててマジコレ、下半身直撃なんだけど。


「わーったよ」

「素直にそう言えばいいのに。はいっ」

「おー」


促されるままに一口。


「……甘ェ」

「そりゃイチゴ牛乳だからね」


美味しいでしょ?と笑う奈紅瑠。
オジさんにとっちゃお前の方がよっぽど美味そうだなんて、口が裂けても言えねえよな。


「奈紅瑠」

「うん?」

「ほれ」


こっちこい、と手招きしてやると、奈紅瑠は嬉しそうに俺の膝によじ上った。
右腕で抱き寄せて柔らかな髪に顔を埋めてみる。
……湯上がり特有の、甘ェ香りが今度こそオジさんの理性をぶっ壊してくれたわけで。


机の上には山積みの書類。
腕の中には俺の大好物。

どっちを選ぶかなんて、もう考えるまでもねえよな。


「なァ、お嬢さんよ」

「ふふ。なーに?」


耳元で囁かれるのがくすぐってえのか、奈紅瑠は少し身じろぎしながら俺の声に答える。
そんな仕草一つにさえ、俺はイチコロだってこと、お前は知らねえだろうなァ。


「お前さん明日暇なんだろう?」

「ん、まーね。阿伏兎と違って暇なのです。羨ましいでしょ?」

「おーおー。なら、明日オジさんの書類片付けんの手伝ってくれるよな?」

「手伝いー?むぅ。しょうがないな」

「決まりだな」


煽ったのはお前さんだからな?


「ちょ……阿伏兎、」

「あー?」

「なんか……手の動きが……えろい」

「そりゃエロいことするからなァ」

「ええ!?だって書類、こんなに……」

「ああ。だから明日な」

「なっ……!阿伏兎の、ばかっ……ん、」


五月蝿くなりそうな口を塞いで、ゆっくりと味わう。
逃げようとする舌を捕まえて吸い上げてやると、ほんのりイチゴの味がした。


fin
亜紀さんへ。
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