愛していると囁いた午前2時




阿伏兎さんの好きなところ。

一見剛毛に見えて、実は意外にふわふわな髪。
私が触れると、阿伏兎さんは口の端を上げて嬉しそうに微笑んで、私の頭を撫で返してくれる。

奈紅瑠、って私を呼ぶ、低くて甘い声。
あの声に囁かれるだけで、阿伏兎さんのためになんだってしてあげたくなってしまう。

私をぎゅって抱きしめてくれる、強くて逞しい腕。
時には戦場で相手の首をねじ切ってしまう冷たい腕。
でも、私を抱きしめてくれるとき、その腕はとても温かい。
今はもう左腕は失われてしまったけれど、そんなことは関係ない。

心までとろけてしまいそうな、甘ったるいキス。
最後にちゅっと唇をついばむのが、阿伏兎さんの常套手段。
深く深く舌を絡めとられてしまえば、私はもう阿伏兎さんの虜。

阿伏兎さんの好きなところ。
ひとつひとつあげていくと日が暮れてしまいそうなくらい、たくさん。
傍にいてくれるだけで安心する、阿伏兎さんの存在。
私、いつだって阿伏兎さんに救われているんだよ。
あなたがいてくれるだけで、私は


「好き。阿伏兎さん」


お互いに一糸纏わぬ姿で、柔らかなシーツに包まれている深夜零時。
阿伏兎さんの胸にすり寄って呟くと、阿伏兎さんは少し掠れた声で尋ねてきた。


「急にどうした、奈紅瑠」

「ううん。なんかそう思ったの。好きだなって。……それと、幸せだなーって」

「……奈紅瑠、」

「うん?」


なあに、と阿伏兎さんを見上げると、とたんに唇を塞がれた。
甘くて、心地よくて、どこかさっきまでの情事を思い起こさせるようなそのキスに、私の心はまたふわふわと軽くなってどこかへ飛んでいってしまいそう。

そんなことを思っていたら、あれよあれよという間に阿伏兎さんの大きな身体に覆いかぶせられていた。


「まさかお前の方から誘ってくるとはなァ…」

「え?なに、ちょ…あぶ、と、さんっ……」

「おじさんしっかり可愛がってやったつもりなんだがな。まだ足りなかったのか?」


ま、いくらでも付き合ってやるよ。

そんなことを言いながら、阿伏兎さんの指先は私の肌の上を滑る。
私の大好きな、あたたかな温度で。


「ち、がうよ……そういうことじゃな……んっ」

「ああ?何だ、違うのか」


堅いこと言うなよ。
そう言って、阿伏兎さんは再び濃厚なキスをくれた。
ちゅく、と吸い上げられて、睡魔に浸食されつつあった頭の片隅で、でもまあいいかな、なんて思ってしまった。


ただ今はもう少し、この甘ったるい幸せの中にまどろんでいたくて。


「んっ……阿伏兎さんのえっち」

「男はみーんなえっちなんだぜ?」


あたたかな腕に抱かれて、今夜も優しい夢を見る。



fin
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